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ルゥと人間のおばあ様(3)

 え?

 ルゥの父親を討った?

 何があったの?


「そうするしかなかったの。ルゥちゃん? ルゥちゃんのパパは優しくてお料理上手だそうね。ルゥちゃんの父親はパパよ? 実の父親の事は……知らない方がいいわ」


 父親は悪い人間だったのかな?

 

「『お兄様』は……どんな人間なの?」


「ルゥちゃんによく似ているわ。銀の髪に青い瞳。優しい子よ。まだきちんとルゥちゃんに会った事はないけれど大切に想っているわ」


 わたしを大切に……?

『まだきちんと』って……

 いつか会っていたの?


「お兄様は、産まれてすぐに連れ去られたルゥちゃんをずっと捜していたの。生きていると知ってそれは喜んでいたわ」


 ルゥが連れ去られた?

 お兄さんがルゥを捜していたの?

 

「いつか会えるかな?」


 ルゥの身体を使っている事をきちんと謝りたいよ。


「ええ。必ず会えるわ。お兄様が落ち着いたら必ず会いに来るはずよ。その時は、おばあ様も一緒に来ていいかしら?」


 おばあ様が微笑みながら尋ねてきた。


「うん。楽しみにしているね。絶対に会いに来てね」


 ルゥも喜んでくれるはずだよ……

 

「ありがとう。残念ね……もう行かないと。ルゥちゃん……幸せになってね」


 おばあ様が、最後にもう一度抱きしめてくれる。

 

 温かい……

 前世のおばあちゃんを思い出すよ。


「おばあ様も幸せでいてね」


 船から降りて、少し離れた所にある小さな島で休む。

 白い砂浜にヤシの木みたいな植物が生えている。


 ヴォジャノーイ族のおじちゃん達がクッキーや果物をいっぱい持って来てくれていたみたい。

 わたしとじいじが敷物に座ると、おじちゃん達が嬉しそうにお茶の準備を始めている。


 イフリート王とケルベロス王も一緒にお茶をするみたいだね。


「前王妃様、おいしいですか? お口に合いますか?」


「前王妃様がお好きなクッキーです。マンドラゴラ達のお土産もたくさんあります!」


 おじちゃん達はいつも通りだね。

 褒めて欲しいのかな?

 すごくかわいいよ。


「おじちゃん達、いつもありがとう。マンドラゴラ達の事もかわいがってくれて嬉しいよ」


「前王妃様! なんとお優しい! あぁ……心が癒されていきます!」


「何を言ってるんだ! 前王妃様はオレに言ったんだ!」


 あぁ……

 また始まった。

 気が済むまでやっていてもらおう……

 クッキーでも食べようかな。

 ……!

 

「おいしい!」


 チョコクッキーだ!

 群馬にいた頃からチョコが大好きなんだよね。

 最近お土産でチョコをもらえるから嬉しいな。


「ルゥはチョコが好きだと言っていただろう。だがチョコは、この世界にはなくてな。それを知ったダディがカカオから作れると教えてくれたのだ」


 じいじが嬉しそうに話しているけど……

 ダディはどうしてチョコを知っていたのかな?


「カカオは、この世界にもあったの?」


「ああ。ウェアウルフ王がリリー島で見つけてきたらしい。それからカカオの木をウェアウルフ王国で大量に育て始めたのだ。それを使って皆でお菓子を作っている」


 リリー島にカカオがあったの?

 子孫繁栄の実もリリー島にあったんだよね?

 それにしても、カカオを分け合ってお菓子を作るなんて魔族の皆は仲良しなんだね。

 

 でも……

 ダディはどうしてチョコの作り方を知っていたんだろう?

 うーん?

 幸せの島に帰ったら訊いてみようかな?


「皆にお礼を言わないと。こんなにおいしいお菓子を食べられてすごく幸せだよ」


 ご機嫌でクッキーを食べるわたしに、じいじも皆も笑っている。


「「「本当にうまいな」」」


 ケルベロス王の三つの頭が同時に話している?


 何回見てもすごいよ。

 でもこの前、触ったら毛が硬かったんだよね。

 ちょっと残念……


 イフリート王は人間みたいな容姿に、ヤギに似た角が生えている。

 イフリート王子とはあまり似ていないかな。

 性格も全然違う感じがするし。

 イフリート王はすごく真面目そうだよ。

 あ、そうだ……


「じいじ? じいじは、いつから人間のおばあ様に会いに行っていたの?」


「少し前からだ。あの死の島での戦いの後からだな」


 そうなんだ……


「いつからルゥのおばあ様だって分かっていたの?」


「死の島でルゥの事をミルフィニアと呼んでいた時に気になってな。調べてみたのだ。ずっとルゥを捜していたようだ」


「ずっと?」


 そうだったんだね……


「ルゥの兄にも会った事がある。覚えているか? 人間の国でルゥをじっと見ていた男がいたのを。あれがルゥの兄だ」


 え?

 見ただけで分かったのかな?


「本当にそっくりだし、イヤリングの片方を持っていたからな」


 ルゥのお母さんはイヤリングを片方ずつ持たせてくれたのかな?


「……お母さんはどうして亡くなったの?」


 じいじが辛そうな顔になった?

 訊かない方がよかったのかな?


「聞きたいか? 悲しい話だ……」


 悲しい話?

 じいじが黙っていたくらいだから、辛い話だとは思うけど……


「……うん。ルゥの為にも聞いておきたいの」


 あ……

 じいじが優しく抱きしめてくれた?


「ルゥの母親は大国の側室だった。王の寵愛を受け、ルゥと兄を身ごもったが……王妃に連れ去られ遺体となり見つかった。王は遺体を引き取らずルゥと兄を捜す事もなかった。遺体は、おばあ様に引き取られ埋葬されたのだ」


「そんな事があったんだね……」


 ルゥの父親は、どうして子供を捜さなかったのかな?


「ルゥの母親は王妃に拐われた後、海賊に助けられルゥと兄を産んだらしい。そして産まれたばかりのルゥが連れ去られ、海に落ち亡くなった。その時、魔王様の術が発動したのだ」


「お父さんが生きていた時に残した最期の力で、わたしの魂をルゥの身体に入れたんだね」


「兄はそのまま海賊に育てられた。母親は二人を産んですぐに命を落とした。双子の出産は命がけだからな。船の上では更に大変だったろう」


「そうだったんだね……」


 前世のお母さんもわたしを産んですぐに死んじゃったんだ。

 わたしとルゥは境遇が似ているね。


「母親の遺体は誰にも気づかれぬように海賊が大国まで運んだようだ。結局引き取られなかったがな。兄はルゥを捜しながら力をつけてきた。いつか大国の王になる為にな。そんな時おばあ様の国で、兄がルゥを見かけたのだ」


 この前の人間のお墓はルゥのお母さんの物だったの?

 ルゥのお兄さんも、お母さんのお墓参りに行っていたんだね。


「まだその時は、おばあ様も兄の存在を知らなかった。だから兄をおばあ様に引き合わせたのだ」


 そんな事があったんだ……


「ルゥによく似た兄がいた事を知っておばあ様も喜んでいた。だがその事が大国に知られると、大国の王妃が兄を暗殺しようとしたのだ。そして……」


「じいじ?」


 話しにくい事なのかな?


「父親がルゥの存在を知ったのだ。魔族と暮らしている聖女だという事をな」

 

「ルゥを利用しようとしたの?」


 捜しもしなかったくせに……


「ルゥを手に入れようとした父親を……兄が海賊と、おばあ様の国と共に討ったのだ」


 ルゥの為に……

 ルゥは愛されているんだね。

 じいじは、わたしが傷つくと思って黙っていてくれたんだ。


「ありがとう……じいじ。じいじは、いつもわたしを守ってくれるんだね……」


 涙が出てくる。

 わたしは守られてばかりだ。

 情けないよ。


「ルゥ、忘れないで欲しい。ルゥはこの身体を奪い取ったのではない。生かしたのだ」

 

 じいじ……

 ありがとう……

 本当にありがとう……

 わたしが苦しまないようにそう言ってくれるんだね。


 いつの間にか、じいじに抱きついたまま泣き疲れて眠っていた。


 あれ?

 ここは幸せの島のじいじのベット?

 じいじの匂いがして安心して眠れたみたい。

 それに……

 隣にじいじが眠っている。


 じいじの寝顔……

 初めて見たよ。


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