お祝いのプレゼント
お昼過ぎ___
「聖女様……」
グリフォン王がフラフラしながら砂浜を歩いている。
いつもは午前中に遊びに来てくれるんだけど……
もしかして、忙しいのに毎日無理しているんじゃないかな?
「遅くなり申し訳ありません。贈り物の用意に手間取りまして」
贈り物?
つがいになるって魔族にとって特別な事なんだね。
「ありがとう。気を遣わせてごめんね」
グリフォン王の肩に、布にくるまれた箱が結んである。
王様自ら持って来てくれるなんて……
でも誰が結んだのかな?
グリフォン族の猫みたいな足じゃ難しそうだけど。
箱を開けると紫色のリンゴみたいな物が入っている。
甘い香りでおいしそう……
「聖女様の為に、リリー島から持って来ました。子孫繁栄の実ですのでぜひ前王とお召し上がりください」
リリー島?
確かすごく遠いはず……
子孫繁栄の実って何かな?
日本のおせちの数の子みたいな感じかな?
「聖女様のお子様なら絶対にかわいいに決まっています」
わたしの子供?
うーん……
よく分からないよ……
「ありがとう。遠いし雨だし大変だったでしょう?」
「聖女様の為ならば苦労などとは思いません。そうだ! リリー島を攻め落としましょうか? そうすればいつでも珍しい果物が食べられますし」
攻め落とす?
また怖い事を……
「気持ちだけで大丈夫だよ。いつもありがとう」
本当に攻め落としそうな勢いで心配になっちゃうよ。
「それにしても似ているな……」
グリフォン王がわたしの顔を見ながら呟いた?
「……? わたしが誰かに似ているの?」
「あぁ……聖女様に似た魔族が……いえ。聖女様は人間ですから……気のせいですね」
「……? そう?」
「子孫繁栄の実は、満月の夜につがいで食べる物です。もしお子様が勇者だったとしても、我らグリフォン族と傘下の魔族が必ず守り抜きます」
グリフォン王……
ありがとう。
勇者は魔族の敵なのに……
「子孫繁栄の実か……色々大変だっただろう?」
ウェアウルフ王がグリフォン王に話しかけているけど……
色々大変って?
遠いだけじゃなくて他にも大変な事があるのかな?
「ウェアウルフ王も食べた事があるの?」
「いえ、わたしはありません。異種族のつがいやパートナーが子を望む時に食べる実です」
え?
縁起物みたいな感じじゃないの?
「聖女様が勇者を産む事は全魔族が知っています。身ごもるまでに時間が経つと良からぬ事を企む者が出てくるかもしれません。ぜひ次の満月の夜にお召し上がりください」
……?
食べたらすぐに妊娠するっていう事?
「ウェアウルフ王? よく分からないんだけど、実を食べると赤ちゃんが来るの?」
……?
あれ?
この場にいる魔族全員が不思議そうな顔をしている?
え?
どうしたの?
「……異世界の人間はどうやって子ができるのですか?」
ウェアウルフ王が首を傾げながら尋ねてきたけど……
「コウノトリがカゴに入れて連れて来るんだよ」
おばあちゃんが言っていたよ。
でも、コウノトリはどうやって母親のお腹に赤ちゃんを入れるんだろう?
「エエ!?」
あれ?
どうしたのかな?
ピーちゃんが驚いている?
……そうか。
ピーちゃんは勇者の助産師さんだからこの世界の妊娠とか出産とかに詳しいんだね。
あの驚き方……
この世界にはコウノトリはいないみたいだ。
「ヒメサマ、ムコウデハ、ナンサイダッタノ?」
ピーちゃんが尋ねてきたけど……
わたしの年齢?
「高二だよ?」
「エエ!? コウニデ……?」
……?
『高二で』?
「聖女様『コウニ』とは何ですか?」
ウェアウルフ王は知らないのかな?
あぁ、そうか。
この世界には高校がないんだった。
「十六歳っていう事だよ。……あれ? ピーちゃんは、どうして分かったの?」
「アァ! ピーチャン、ヨウジガアッタ!」
ピーちゃんが慌てて飛んで行った?
ピーちゃん……
もしかして……
トイレかな?
「ルゥ? どうした?」
じいじがお出かけから帰って来たね。
「じいじ、ウェアウルフ王がフェニックスの飾りを作ってくれたの。あとね、グリフォン王が子孫繁栄の実を持って来てくれたの」
「そうか。ちょうどよかった。王達に渡したい物があったのだ」
じいじが、ウェアウルフ王とグリフォン王に封筒を渡した?
何かの手紙かな?
「次の満月の夜、魔王城でわたしとルゥの宴を催す事になった。全種族王にも招待状を送るが出席するか?」
え?
結婚式みたいな事?
「異世界の人間は結婚式とやらをするのだろう? ルゥもやりたいだろうと思ってな」
じいじ……
ちょっと話しただけなのに覚えていてくれたんだ。
あれ?
でも魔王城って……?
「じいじ? 魔王城って結婚式場なの? 借りられるの?」
「……? 宴をする場所という事か? ルゥは魔王様の唯一の子。次の魔王が決まるまで、正式な持ち主はルゥなのだ」
「ええっ!?」
知らなかった!
そうだったの?
「魔王城の魔素は祓えなかったが、清潔だったろう? ルゥの好きな甘い香りで満たして、掃除をしておいたのだ。あの密蝋入りのロウソクはオークが作った物だ。いつルゥが魔王城に遊びに行ってもいいように準備だけはしてあったのだ」
そうだったんだ……
知らなかった。
それであの時、パパに密蝋のロウソクを作ってもらおうって言っていたんだね。
わたしが着いた時には火がついていたから、ヴォジャノーイ王がつけてくれたのかも。
王様なのに申し訳ないよ。
結婚式か……
前世と今世を合わせれば、もう三十歳……
まさか異世界で結婚するなんて思いもしなかったよ。




