パパとママとスプーン
全魔族王会議、翌日___
今日は朝から雨。
外で遊べなくてマンドラゴラの子供達がつまらなそうにしていたんだけど……
いつもより早く遊びに来たウェアウルフ王達が、ガゼボで子供達にかわいい木のスプーンを作ってくれている。
「キュイ?」
「そうだ。これでプリンをすくいやすくなるぞ?」
「キュキュ?」
ウェアウルフ王はマンドラゴラ達の言葉を理解している。
ウェアウルフ族は土とか木とか、自然に深く関わりがある種族だからなんだって。
うらやましいな。
ウェアウルフ族は大きい身体だけど手先が器用なんだ。
今作ってくれているスプーンもかわいい鳥の飾りがついている。
できあがったスプーンを持った子供達が踊りながら喜んでいるね。
見ているだけで幸せな気持ちになるよ。
あれ?
赤ちゃんのあの踊り……
やっぱりどこかで見た事があるような……?
「いいなぁ。かわいいなぁ。パパも欲しいなぁ」
パパがほっぺたをピンクにしながらウェアウルフ王にお願いしている。
パパはかわいい物が好きだからね。
「オーク……作るのはいいが鳥の飾りは、いらないだろう?」
ウェアウルフ王がパパに確認しているけど……
「ええ? つけて欲しいよぉ。かわいいのがいいよぉ。ヒヨコちゃんがいいよぉ」
パパ……
やっぱりかわいいスプーンがいいんだね。
「その顔で、かわいいヒヨコって……」
ウェアウルフ王……
それ以上言ったらパパが泣いちゃうよ……
わたしからも鳥の飾りをつけて欲しいってお願いしよう。
「ウェアウルフ王、パパにも鳥の飾りをつけて欲……」
「はいっ! 聖女様の頼みなら。そうだ! フェニックスをリアルに彫り込みましょう!」
食いぎみに返事をした……
しかもフェニックスをリアルに?
ウェアウルフ王なら国宝になりそうなスプーンを作れそうだよ。
「かわいいのがいいよぉ……ねぇ? 聞いてるぅ?」
いや……
聞いていないよ。
もう彫り終わりそうだし。
「うわぁ……すごい。生きているみたい」
できあがったスプーンに、すごく立派なフェニックスの飾りがついている。
「でもぉ、パパ、ヒヨコちゃんがよかったのぉ……」
パパが泣き出しそうだ。
でも、せっかく作ってもらったし……
そうだ!
「ウェアウルフ王、このスプーンわたしがもらってもいい?」
わたしが持つとかなり大きくなりそうだけど、スプーンじゃなくて部屋の飾りとかにもなりそうだし。
もう一度パパの為に、かわいいヒヨコちゃんのスプーンを作ってもらおう。
「聖女様が!? はい! 喜んで!」
よかった……
ウェアウルフ王はいつも優しいね。
あ……
嬉しいのかな?
しっぽがずっと揺れている。
ちぎれそうなくらい揺れているけど大丈夫だよね?
マンドラゴラの子供達がしっぽを掴もうとしている……
かわいいっ!
それにしても本当に立派なフェニックスだ。
あの大きい手でこんな繊細な物を作れるなんてすごいよ。
「そういえば、聖女様。お祝いの品は何がよろしいでしょうか?」
「お祝いの品?」
何の事だろう?
「つがいになったお祝いです。王族は盛大に宴を開くのです。その時にはぜひ出席させてください」
じいじとわたしがつがいになったお祝い?
結婚式っていう事?
この世界にも結婚式があったんだね。
「誰かつがいになったのか? 珍しいな」
ママがお出かけから帰って来たね。
あれ?
あ……
そうだった。
つがいになった事を話していなかったよ。
「ママ……ごめんね。話すのを忘れていたよ。……わたし、じいじとつがいになったの」
……?
あれ?
幸せの島が静まり返った?
さっきまで賑やかだったマンドラゴラの子供達も固まっている?
「えええええっ!?」
海から大声が……
少し離れた海面で、顔だけ出した魚族長が叫んでいる。
耳がいいんだね……
魚族の皆も顔を出して固まっている。
「魚族長……魚族の皆も大丈夫?」
つがいになるって、そんなに珍しい事なのかな?
「姫様! ヴォジャノーイ様に弱みでも握られたのですか!?」
魚族長……
じいじがいなくてよかったね……
じいじを尊敬していると思っていたけど、本当は怖がっていたのかな?
「ルゥ!? つがいの意味が分かっているのか!? 永遠に一緒にいるって事だぞ!? あれ? ルゥとずっと一緒……わたしもルゥとつがいになりたい……」
ママ……
気持ちは嬉しいけど……
わたしはママの娘として一緒にいたいよ。
「つがい? 何それぇ?」
パパ……
そうだよね。
わたしも知らなかったし。
「つがいとは、愛する相手とずっと一緒にいる事です。姫様、おめでとうございます。いつかこうなるのではと……思って……いました」
ダディから見ても、わたしのじいじへの想いは溢れ出していたんだね。
恥ずかし過ぎる……
でも、ダディは複雑そうな表情をしているけど……?
「んん? じゃあ、パパもぉハーピーとぉつがいになるのぉ?」
……?
え?
パパ?
「な……何言ってんだよ!? バ……バカオークめ!」
え?
ママ?
顔が真っ赤だ……
え?
嘘……
まさか……
「だってぇ、パパねぇハーピーの事がぁ大好きだもん」
パパのほっぺたがいつもよりピンクになっている!?
わたしの為にパパ役とママ役をしていたんじゃなくて、本当にママの事が好きだったの!?
「はぁっ!?」
ママ?
怒ったの?
でも、顔が真っ赤だよ?
「悪くない」
え?
ママが呟いたけど……
何が悪くないの?
「悪くないぞっ!」
今度は叫んだ?
あれ?
前にもどこかで見たような?
あぁ……
ママがどこかに飛んで行っちゃった。
でも、チラッと見えた横顔がすごく嬉しそうだったね。
幸せの島……
まさか本当に『住む人を幸せにする島』だったりして……?




