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ピーちゃんの過去

今回はピーちゃんが主役です。

 ボクは、ずるくてダメな奴なんだ。

 前世で人だった時も、その前世で人だった時も……

 ただ怖くて、生き残る事だけに必死だった。

 いつも怖かった。

 いつもボクばかり魔族と戦わされて、ボクばかり怪我をして痛かった。

 いつもボクばかり……


 無限にループしていく勇者としてのボク。

 やりたくないのに勇者だからって魔族と戦わされる。

 

 もう、うんざりだ。

 何度も死んだ。

 いや、殺されたんだ。

 魔族だけじゃない。

 仲間のはずの人にも。


 平和な世界に勇者はいらないって。

 だからって暗殺するなんて……


 もう嫌になったんだ。

 何もかも。


 ボクは死ぬと、いつも小鳥になる。

 緑の小さな鳥。

 魔力はないのに鳥達には鳥じゃないって仲間外れにされて、魔族には食われそうになる。


 何度繰り返したんだろう?

 数えるのも嫌になる。

 孤独なんだ。

 ずっと……

 鳥から人になって勇者になっても最後に待っているのは悲惨な死。


 

 ある時、いつもと違う事が起きた。

 

 小鳥の時に魔族に襲われた。

 逃げるのは簡単だ。

 ずっと逃げ続けているから。

 でも、ハーピーが助けてくれたんだ。

 不思議だった。

 ハーピーはボクを食べる側の魔族だから。

 どうして従魔にして助けてくれたんだろう?


「おまえも、寂しいのか?」


 ハーピーはいつも、そう尋ねてきた。

 そして寂しそうに誰かの墓の前に立ち尽くす。

 大量の彼岸花が咲く島にある、小さな墓……

 誰の墓なんだろう?


 今まで……ボクが死んだ後にも、こんな風に誰かが泣いてくれたのかな?


 ボクは引き寄せられるんだ。

 勇者の母親に……

 行きたくなんてないのに。

 それが勇者としての定めだからなのかな。

 また引き寄せられたんだ。


 死の島で連絡用の鳥として魔王の娘を守る役目。

 勇者のボクが魔王の娘を守るなんて……

 しかも、この感じ……

 魔王の娘は勇者の母親になる人だ。

 

 もう一つ分かった事がある。

 この魔王の娘は、日本人だ。


 かくれんぼ?

 だるまさんが転んだ?


 懐かしい……

 あまりに辛くて悲しくて、思わずその場から逃げ出した。


 ボクは日本人だ。

 平成生まれの。

 でも、おかしいんだ。

 ボクの方が姫様より、かなり昔からこの異世界に来ていたのに感覚のズレがない。

 ボクは三千年くらい前に転移して来て、姫様は今に転移して来た?

 このズレは何だろう?


 考えても分かるはずがない。

 異世界に来て勇者になれたって最初は喜んだ。

 本の世界の出来事だと思っていたのにボクが主役になれたんだ。


 でも、これは現実だ。

 怪我をすれば痛いし裏切られれば辛い。

 勇者になって死ねば終わるはずの人生は……

 死んで目覚めると小鳥になっていて、勇者の母親の愛情でシームルグに成長して……

 母親が妊娠するとその腹の子に憑依してまた勇者になる。

 そして、母親に言われるんだ。


「勇者として魔族を倒して」


 他の兄弟にはそんな事は言わないのに。

 ボクにだけ……

 いつもボクばかり。

 誰もボクの事なんて愛してくれないんだ。

 ボクの事なんて誰も守ってくれないんだ。


 それなのに……


 姫様はいつもボクの事を守ってくれる。

 小さい時は木の実をくれて、名もつけてくれた。

 大きくなっていくボクに……


「ピーちゃんは綺麗だね」


 って言って撫でてくれた。

 それに、魔王城でも姫様は……


「まだ産んでもいない子の事を訊かれても分かりません。ですが勇者であってもなくてもわたしは命を懸けて守るでしょう。幸せの島で家族がわたしを守ってくれているように」


「皆さんが心配するような事にはなりません。これから身ごもるであろう子は前王様の子です。勇者として産まれたとしても魔族を倒す事はありません」


「もしも、前王様との間に子ができたら……その子にも、わたしのように幸せになって欲しいのです。あの幸せの島で……魔族として」


 姫様……

 ボクは……

 卑怯だ。

 姫様に本当の事なんて言えない。

 姫様の子に憑依するなんて……

 姫様の子を殺すのと同じ事じゃないのか?


 でも、これはボクがどんなに逆らおうとしても無理なんだ。

 ボクが勇者の人生を繰り返すのはもう決まっている事だから。


 だから姫様も、最近は母性が溢れ出している。

 姫様の意思とは関係なく生き物を愛しいと思い、愛を注ぐ。

 そして、愛を注がれた生き物も姫様を愛するんだ。

 今までの母親もそうだった……

 全部ボクのせいなんだ。

 ボクを完全体のシームルグにする為には勇者の母親の愛情が必要だから。

 全部ボクのせいなんだ……


 日本人だった時、手違いで死んだボクは神にお詫びとして願いを叶えると言われたんだ。

 ボクはバカだった。

 勇者にしてくれって、ただ勇者がかっこ良さそうだからって……

 深く考えもしなかった。


 まさか死んでも死んでも勇者が繰り返されるなんて思いもしなかった。


 今回もまた勇者として、やりたくもない魔族の討伐をさせられるのか……

 そう思っていた。

 でも、今回は違う気がするんだ。

 姫様は絶対に魔族を倒せなんて言わない人だから。


 ボクはもうすぐ完全体のシームルグになる。


 それは姫様が身ごもるっていう事だ。

 この状況からして父親は、前ヴォジャノーイ王だろう。

 

 ボクはとんでもない魔力を持った赤ん坊として産まれてくるはずだ。

 その魔力を使えば簡単に魔族を滅ぼす事ができるだろう。


 もしかしたらこの無限のループから抜け出せるかもしれない。


 でも……

 姫様はどうなるんだ?

 姫様の大切な魔族をボクが殺したら……

 姫様はボクを嫌いになる?

 後を追って自殺するかも……


 そんなのダメだよ!

 ボク……どうしたらいいの?


 また、ボクは逃げた。

 全魔族王会議から逃げた。

 こっそり隠れて、陰から会議を見ていたんだ。

 そして姫様がこれから産まれてくるボクを大切に思ってくれている事が分かったんだ。

 それなのに……

 

 幸せの島まで逃げて来ちゃった……

 ボクは卑怯者だ。

 姫様だけ会議に参加させて、逃げて来たんだ。


「ピーちゃん? 見いつけた!」


 え?

 姫様?


「今ね、かくれんぼをしているの。ダディと子供達がどうしてもやりたいんだって。外ならパパの顔も怖くないでしょ?」


「オコッテナイノ?」


 ボクだけ逃げて来たのに……


「え? 何を? ピーちゃんも一緒にかくれんぼしよう?」


 姫様……

 

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 こんなに優しくしてくれるのに……

 こんなに愛してくれるのに……

 

 ボクがこれから何をしても嫌いにならないで……

 ごめんなさい。

 姫様……

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