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夜明けと共に

 魔王城から出ると朝日が登り始めている。

 いつの間にか魔王城の魔素が薄くなっている。

 朝日に照らされた魔王城がキラキラ輝いている。


 こんなに綺麗だったんだね。


 じいじが手を握ってくれる。

 ひんやりしているけど、温かくて優しい手だ。

 

「ルゥ……帰ろう。幸せの島に」


「うん」


 長かった……

 疲れたよ。

 

「聖女様、このまま温泉に入りに行ってもよろしいでしょうか?」

「わたしも行きたいです」

「姫様! あ、いや。あの……伯母上……わたしも行きたいです」


 伯母上?

 あぁ!

 そうか。

 わたし……

 じいじと……

 恥ずかしくて嬉しくてほっぺたが赤くなるのが分かる。


「聖女様、幸せなのですね」


 ウェアウルフ王が優しい笑顔で話している。


「お二人が惹かれ合っている事は以前から分かっていました」


 グリフォン王が笑っているけど……

 そうだったの?

 恥ずかしい……


「では、帰ろう」


 じいじが微笑みながら髪を撫でてくれる。

 

 振り返って魔王城を見るとイフリート王とケルベロス王の姿が見える。

 あれ?

 そういえばリヴァイアサン王の姿がずっと見えなかったような……

 ずっと誰かがテーブルに隠れていたけど、あれがリヴァイアサン王だったのかな?

 絵本には、ずるくて嘘つきで陸に上がれなくて泥棒だって書いてあったけど……

 あれ?

 陸に上がれるの?

 

 結局、血の契約は後日幸せの島でやり直す事になった。

 

 じいじとの間に子供ができてその子が魔族に襲われたとしても、じいじだったら簡単に守り抜く事ができるはず。

 でも、魔族達に『もしも勇者になって襲って来たら』なんて考えて欲しくないんだ。

  

 疎まれ嫌われる存在じゃなくて、皆に愛されて育って欲しい。

 前世ではおばあちゃんや集落の人達が、今世では魔族の皆がわたしを愛してくれたように……

 たくさんの愛に包まれて欲しいんだ。


 まだ産まれてもいないし、存在すらしていないのにおかしいよね。

 でも……

 本当に最近おかしいんだ。

 モフモフを見ると我慢できなくなる。

 毛が生えているモフモフだけじゃない。

 生き物全てに『かわいい』っていう気持ちが止まらない。

 どうしちゃったんだろう?

  

 ピーちゃんが大きくなる為に愛情が必要だって言っていたけど、関係があるのかな? 

 元々モフモフ好きだから嫌ではないんだけど。

 むしろ、モフモフできて嬉しいし……

 

 グリフォン王は空を飛んで、ウェアウルフ王はレモラ族に運んでもらっている。

 ヴォジャノーイ王は少し離れた所を泳いでいる。


 じいじ……

 皆には自分で来いって言って、海の中を進む術をかけてくれなかったんだよね。


 じいじと二人きり……

 ドキドキが速くなる。


「ルゥ?」


 ……!

 じいじが髪を撫でてくれる。

 顔が熱いよ……


「緊張しなくていい。今までと何も変わらないからな」 


「何も変わらないの?」


 つがいになったのに?

 魔族のつがいってどういう感じなのかな?


「魔族のつがいは珍しい。王や王妃が地位を固める時に名乗るくらいだな」


「へぇ……そうなんだね」


「人間の結婚はどんなものだ?」


 人間かぁ……


「わたしには、よく分からないや。結婚式を挙げるっていう事くらいしか知らないの」


 お父さんもお母さんもいなかったし。

 

「そうか……ゆっくり、じいじとルゥの幸せの形を見つけていけばいい」


 わたし達の形か……


「うん……そうだね」


 ドキドキしながら、ゆっくりじいじに抱きつく。

 胸の音が心地いい。

 髪を撫でてくれる手が優しくて安心する。

 ウトウトしちゃうよ……


「おやすみ、ルゥ」


 じいじの低くて優しい声が目を閉じさせる。

 幸せだな……

 

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