ここからが本当の全魔族王会議……?
「では、始めよう」
ケルベロス王の低い声が響く。
「聖女様、あの鳥がシームルグだったのですか?」
グリフォン王が尋ねてくる。
「うん。そうみたいなんだけど、シームルグって何?」
グリフォン王は鳥獣族だから何か知っているかも。
ピーちゃんは教えてくれないし……
「シームルグとは聖獣です。勇者が現れる時にシームルグも現れると言われています。ですが詳しい事は分かっていません」
詳しい事は分からないのか。
やっぱりピーちゃんに訊くしか……
って、あれ?
ピーちゃんがいない?
いつから?
「じいじ? ピーちゃんがいないよ?」
「ああ、途中で逃げたな」
「え? いつ?」
「密蝋の辺りだ」
うわぁ……
ピーちゃんはシームルグになっても相変わらずだね。
「シームルグは本当の事は話さないだろう。いてもいなくても同じだ」
「じいじ……」
よく分かっているね。
その通りだ。
今頃幸せの島に帰っているかもね。
でもピーちゃんがいないと、この全魔族王会議の意味が……
何を話し合うの?
「聖女様。はじめまして。わたしはイフリート王です」
イフリート王子の父親か。
雰囲気があまり似ていないね。
真面目で厳しそうな感じだよ。
「聖女様の産む子が勇者になると伺いましたが事実でしょうか?」
事実でしょうかって言われても、まだ産んでいないから分からないよ。
「まだ産んでもいない子の事を訊かれても分かりません。ですが勇者であってもなくてもわたしは命を懸けて守るでしょう。幸せの島で家族がわたしを守ってくれているように」
久々に敬語を使ったな。
今世では使った事がなかったかも……
「勇者は魔族の敵です。我ら魔族は勇者誕生を阻止します」
イフリート王……
あなたの言っている事は間違っていないよ。
魔族達は皆、同じ考えだと思う。
勇者は魔族の敵だから。
でも……
「皆さんが心配するような事にはなりません。これから身ごもるであろう子は前王様の子です。勇者として産まれたとしても魔族を倒す事はありません」
この程度の答えじゃダメかな?
どうすれば納得してくれる?
「人間の子として産まれ育ったから魔族を倒そうとするのです。初めから魔族として育てば魔族を倒そうとは思いません」
これ以上はもう答えようがない……
「聖女様は人間です。いつ人間に寝返るか分かりません」
……!
わたしが?
人間に寝返る?
「イフリート王! 言葉が過ぎます!」
「聖女様に失礼だ!」
ウェアウルフ王、グリフォン王……
ありがとう。
でも、わたしは人間だから悪口にはならないよ。
「わたしは確かに人間です。ですがわたしに愛を注ぎ育てたのは人間ではありません。魔族なのです。そしてわたし自身、魔族に産まれたかったと思っています」
この気持ちに嘘はない。
左耳のイヤリングを外す。
たぶんルゥの産みの親が持たせた物だ。
ごめん、ルゥ。
「これはこの身体の人間の親が持たせたであろう物です」
テーブルにイヤリングを置く。
「わたしは人間です。ですが……人間である事をやめます。これからは前王妃として生きていきます。人間に寝返る事など絶対にあり得ません」
もうこれ以上は無理だ。
信じて欲しいなんて無理なのかな?
「もしも、前王様との間に子ができたら……その子にも、わたしのように幸せになって欲しいのです。あの幸せの島で……魔族として」
そうだよ。
全ての幸せはあの島にある。
「もしも、人間との間に子をもうけたらその子には死んでもらいます。よろしいですね?」
イフリート王……
本気なんだね。
「……分かりました」
わたしは、一般的な人間より長く生きるらしい。
その時点でもう普通の人間じゃないんだろうな。
「血の契約をしていただきます」
血の契約?
血判の契約書か……
「そこまでする必要があるのか?」
「そうだ。聖女様のお身体に傷をつけるとは!」
グリフォン王、ウェアウルフ王……
いつも味方になってくれる。
初めて会った時は敵だったのに。
わたしの血の力を秘密にしようとしているんだ。
じいじの顔を見ると、小さく頷き合う。
「ありがとう。グリフォン王、ウェアウルフ王。でも大丈夫だよ」
そう。
大丈夫なんだ。
死の島で血の力を使った後、じいじと特訓したんだ。
血の力で死者を蘇らせる事ができる。
それがバレたら、わたしは身体中の血を抜かれるだろう。
そうならない為に、流れた血に神力が宿らないように練習した。
治癒の力も使いこなせるようになったし。
……でも、じいじはどうして神力の使い方を知っていたんだろう?
前に、魔族だから光の力は教えられないって言っていたような……?
本で読んだのかな?
じいじは、いろんな事を知っているから……
じいじはいつかこんな時がくる事を予想していたの?




