これが全魔族王会議……?
「よく来た。聖女、シームルグよ」
低い声が響く。
重苦しい雰囲気だ。
「……? シームルグ……? うわああ! 前ヴォジャノーイ王!?」
あれ?
王様が一人、テーブルの下に隠れた?
え?
どうしたの?
「前王よ。この場にいられるのは現在の王であり、前王は許されていない」
すごく低い声だ。
空気がビリビリ振動するのが分かる。
どの種族の……
あぁっ!
「やっぱり!」
わたしの叫び声が響く。
王様達が驚いた表情でわたしを見ている。
瞳をキラキラ輝かせているわたしの視線の先に、頭が三つある大きい犬がいる。
「あの……あの! ケルベロス王! お願いがあるの!」
「聖女様! いけません。ケルベロス王は残忍なのです! そして汚れています! わたしをモフモフしてください!」
「ケルベロス王は絶対にいけません。悪い菌がいるかもしれません! わたしをモフモフしてください!」
グリフォン王とウェアウルフ王が慌てている。
しかも、酷い悪口まで言っているよ。
ケルベロス王は怖いのか。
そして汚いのか……
というか二人はわたしがモフモフしたい事をよく分かったね。
「今のは悪口か……? まぁ、いい。聖女よ。わたしを知っているのか……わたしにモフモフとやらの攻撃をしたいのか?」
ケルベロス王は、すごく低い声だ……
威厳に満ちている。
でも、モフモフって言ったよね。
かわいいっ!
「うん! 嫌じゃなかったら……だけど」
攻撃じゃないんだけどな。
モフモフの意味が分からないんだろうね。
「やってみるがいい。全力で打ち負かしてやろう!」
ケルベロス王がわたしの前に歩いて来る。
大きい犬だ……!
でも想像していたよりは小さいかも。
……?
何と比べて小さいと思ったんだろう……
あ!
肉球はどうなっているのかな?
「「「さぁ! どこからでもかかって来い!」」」
三つの頭の全部が同時に口を開いたけど……
「ど……どこからでもいいの?」
いきなり肉球を吸ってもいいっていう事?
でも、さすがに初めて会った相手に足の裏を吸われたら嫌だよね。
「わたしはグリフォン王やウェアウルフ王のように甘くは……」
まだ話している途中だけど我慢できずにケルベロス王に抱きつく。
三つの顔が固まったね。
うわ……
かなり硬い毛だな。
かわいいけど……
血の匂いがする。
ウェアウルフ王の方が柔らかくてフワフワだな……
思っていたのと違う。
……あれ?
でも、どうしてケルベロス王がフワフワだと思ったんだろう?
ケルベロス族には会った事がないのに。
「聖女様……? 大丈夫ですか?」
がっかりしているわたしの所にウェアウルフ王が歩いて来る。
「違ったの……」
全然違ったの……
ウェアウルフ王とグリフォン王が言った通りだ。
「何がですか?」
ウェアウルフ王が尋ねてきたけど……
「思ったのと違ったの……」
毛が硬くて汚れていて残念なの。
でも、それを口に出したらダメだよね。
「何が違ったのですか?」
抱きついていたケルベロス王から離れて、ウェアウルフ王に抱きつく。
「フワフワだぁ! 柔らかくていい匂い!」
ウェアウルフ王のお腹に顔をスリスリする。
これこれ!
これだよ!
フワフワでいい匂い……
「やっぱりウェアウルフ王がいちばん気持ちいいね!」
幸せそうに笑うわたしに、ウェアウルフ王が嬉しそうにしている。
しっぽがすごく揺れている。
かわいいっ!
「わたしは毎日せっけんで身体を洗いフワフワに乾かした後、念入りにブラッシングをしていますから!」
すごいなぁ。
毎日お手入れしているのかぁ……
だから毛並みがいいんだね。
「ウェアウルフ王……そんな事をしているのか?」
ケルベロス王が軽蔑の眼差しを向けている。
「当然だ! いつ聖女様に触れられてもいいように常に清潔にしているのだ!」
グリフォン王とヴォジャノーイ王以外の王様達が、ウェアウルフ王に残念そうな眼差しを向けている。
「だからいつもウェアウルフ王はいい匂いがするんだね」
ニコニコのわたしが言うとグリフォン王もわたしの所に出て来る。
「聖女様! わたしも毎日聖女様と温泉に入っているのでツヤツヤです! モフモフしてください!」
「うん。今日は温泉に入れなくて残念だったの。明日は一緒に入ろうね」
グリフォン王に抱きつく。
毛がツヤツヤだ。
羽毛はフワフワだし気持ちいい。
「姫様! わたしは毛は生えていませんがお土産があります! 姫様のお好きな果物とクッキーです! 撫でてください!」
ヴォジャノーイ王。
お土産をくれるなんて、優しいね。
「ありがとう。おいしそうだね」
頭を撫でられて嬉しそうだけど、相変わらずじいじの顔色を窺っている。
その姿を見て、今まで黙っていたじいじが口を開く。
「ヴォジャノーイ王よ」
「はいっ!?」
ヴォジャノーイ王がビクッとしたね。
「ルゥはもう姫様ではない」
「え? あぁ……あの、聖女様とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
ヴォジャノーイ王がビクビクしながら尋ねている。
「いや、違う。今日から伯母上と呼びなさい」
「はい。今日からは伯母上と……え?」
ヴォジャノーイ王が混乱している。
「ルゥとわたしは今日から、つがいになる」
え?
つがいって何?
「ええ!?」
皆は驚いているけど、わたしは首を傾げた。




