おばあちゃんの記憶と告白
「パンチパーマだよ?」
おばあちゃんだけじゃなくて集落のおばあさんは皆パンチパーマだったよね。
懐かしいなぁ。
「それは何だ?」
じいじが尋ねてきたけど……
この世界にはパンチパーマがないのかな?
「髪型だよ。短くてクルクルしているの」
「短くてクルクル?」
「うん!」
実際見ないと難しいかな。
集落に若い頃美容師をしていた人がいて、その人が集落中のおばあさんの髪を切ってくれていたんだけど……
なぜか皆パンチパーマになっていたんだよね。
小さい頃は、おばあさんは皆パンチパーマなのかと思っていたから隣の集落のサラサラヘアーのおばあさんを見た時には驚いたよ。
「……いや、髪型ではなくて……」
じいじが困った顔をしている?
「え? じゃあ何を話せばいいの?」
「どういう性格というか、人柄というか」
そういう事か。
なるほど。
「おばあちゃんは鉄砲撃ちだったんだ。正義感が強くて曲がった事が大嫌いだったの。あと……優しかったよ。それと、毎晩一緒に寝ていたの」
涙が出てきちゃった。
「すまない。辛い事を思い出させたな」
じいじが優しく抱きしめてくれる。
「違うの。おばあちゃんの事を話せて嬉しかったの」
大切なおばあちゃんだから、大好きなじいじに話せてよかった。
今まではお父さんの事しか訊かれなかったから……
「鉄砲撃ちとは?」
「小さい大砲みたいな物を撃つの。野菜を食べちゃう害獣を駆除していたんだよ」
「そうか……大砲か。似ているな……それは魔術とは違うのか?」
似ている?
何がかな?
「違うよ。前世では誰も魔術を使えなかったから。何かと似ているの?」
「知り合いの老女が大砲を撃っていたのだ。前世では一人も魔術を使えなかったのか?」
老女が大砲を?
すごいね。
「うん。魔法石もないよ。水も火も簡単に使える道具があったの」
「ルゥは……この世界に来て辛かったか?」
「え?」
どうして突然そんな事を?
「全く違う生活をする事になったのだ。辛かっただろう……?」
辛くなんてないよ。
ずっと大切にしてもらって幸せだよ?
「一度も辛い事なんてなかったよ。おばあちゃんが亡くなってひとりぼっちになって……だから、家族ができて嬉しかったの」
「そうか……」
じいじが優しく抱きしめながら髪を撫でてくれる。
そういえば、前の世界の事を話すのは初めてかも。
「じいじも……ルゥに出会えて幸せだ」
……!
まただ!
ドキドキしている。
どうして?
まさか……
悪い病気とか?
「じいじ……わたし……病気なのかな?」
「どこか身体が辛いのか?」
じいじが心配そうにわたしを見つめている。
あ……
もっとドキドキが速くなった。
「じいじに見つめられるとね……ドキドキするの」
「え?」
じいじが驚いた顔でわたしを見つめている。
「パパとママは平気なの。じいじにだけドキドキ……え?」
これって……
まさか……
「嬉しいよ」
じいじがわたしのおでこに口づけをした!?
……!
顔が熱い!
ドキドキがもっと大きく速くなった。
もしかして……
わたし……
じいじの事が……
好き?
「じいじ……好き……」
ダメだ。
じいじの顔を見られない。
口に出しちゃったよ……
「じいじもルゥが好きだ」
……!?
じいじも!?
でも……
「孫として……だよね。お父さんの娘だから……」
「一人の女の子として……好きだ……」
「え? じいじ……?」
じいじの唇がわたしの唇に優しく触れる。
「これからも、ずっと一緒だ」
ずっと一緒?
わたしは長くは生きられないのに?
わたしは早く死んで、じいじは独りで残されるの?
おばあちゃんがいなくなって、ひとりぼっちになったわたしみたいに?
ハーピー族長みたいに独りで長い時間を生き続けるの?
涙が溢れ出してくる。
「わたしは……もうすぐ死んじゃうよ?」
じいじが驚いた顔をしている。
「誰かに何か言われたのか?」
「……え?」
お父さんがこの世界に来たのはわたしが一歳の時。
わたしの前世は十六歳で終わった。
お父さんが亡くなったのは、わたしがこの世界に来る二年くらい前だったらしい。
約十三年。
お父さんがこの世界で生きられたのはたったそれだけ……
わたしは今、十四歳。
いつ死んでもおかしくないんだ。
「ルゥ……」
じいじが涙を拭いてくれる。
悲し過ぎて何も話せないよ……
「魔王様の力は凄かった。だが自身には使えなかったのだ。ルゥの治癒の力のようにな。魔王様は亡くなる直前にルゥにいくつかの魔術をかけたのだ」
お父さんが……?
「この世界に来られる魔術。そして、普通の人間よりも少しだけ長く生きられる魔術だ」
少しだけ長く生きられる魔術……?
どれくらい生きられるんだろう?
「もっと早く話しておくべきだった……すまない。それに、魔族には永遠に近い命を授ける事ができる者もいる。ルゥが望むならその者に頼む事もできる」
じいじと一緒に……
ずっと一緒にいられるの?
パパとママと島の皆と、ずっと一緒に?
「うぅ……じいじ……」
嬉しい。
嬉しいよ。
「これからは、色々な事を話そう。不安がなくなるように。ルゥがいつも笑顔でいられるように。じいじは絶対に……ルゥを置いていなくならない」
じいじの優しい笑顔。
前世のお父さんもお母さんもおばあちゃんも……
皆わたしを置いて逝っちゃった……
じいじはずっとずっと一緒にいてくれるんだね。
じいじとママとパパが、わたしだけがいない幸せの島で暮らし続けるなんて考えたくなかった。
わたしだけが死んでいなくなるなんて嫌だったんだ……
大切な家族がいる島でずっと幸せに暮らしたかった。
「うん……うん……」
じいじの優しい腕、胸の音……
心が落ち着いていく。
わたしがこの世界に来た理由が分かった気がした。
ハーピー族長と人間が引き寄せ合ったみたいに……
わたしは、じいじに出会う為にこの世界に来たんだ。
きっと、そうだよね……
「ロスタムノ、チチオヤ、ジイジ?」
え?
ピーちゃんは、いつから起きていたの!?
まさか全部見られていた?
口づけしたところも!?
「いや……あの……まだ結婚もしていないし、まだ……十四歳だし」
結婚は早いよ。
でも、前世と合わせたら三十歳だよね?
うーん……?
「人間は結婚をするが魔族はしないぞ?」
「え? そうなの!?」
「魔族は永遠に近い時間を生きるからな。心変わりは当たり前だ」
「心変わり……?」
じゃあ……
じいじも……
「だが、ルゥが望むなら永遠の愛を誓ってもいいだろう」
永遠の愛を……?
顔が熱い……
ドキドキする。
「じいじは……わたしでもいいの?」
「ルゥと共にいる時間が、じいじにとって最高に幸せな時間なのだ」
じいじ……
わたしもだよ。
「今までと特に変わる事はないだろうが、これからもずっとルゥを大切にする……」
抱きしめてくれているじいじの優しい声が身体中に伝わって安心する。
「うん……じいじ、これからも……ずっと大好きだよ」
じいじは、ずっとわたしの幸せを考えてくれていた。
これからはわたしも、じいじを幸せにしたいよ。
一緒に幸せを感じて生きていきたいな。
魔族の長い時間をずっと幸せに……
……?
何だろう?
心がザワザワする?




