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ジャバウォックと残念王子

今回はジャバウォックが主役です。

 オレ、ジャバウォック。

 ジャバウォック族はイフリート王国の傘下に入っているから、仕方なくわがまま王子に仕えている。

 

 このわがまま王子は本当に手がかかる。

 わがままで生意気ですぐに殴るしバカだし、知能が足りないし頭が悪いしバカだし、バカだし……

 きりがないな、とにかくバカなんだ。


 まぁ、頭のいいオレが毎日我慢して付き合ってやってるんだけどな。


 今日、王子は朝から宴で外出はしない。

 さて、出かけるか。


 勝手に出かけたら怒られるかもしれないが、バレないようにすれば平気だろう。


 静かに飛び立つ。


 行き先は、そう。

 聖女様……

 王子は魔王の娘って呼んでるが、あのお方は間違いなく聖女様だ。

 神々しい銀の髪。

 海のように青い瞳。

 せっけんの甘い香り。

 優しくてかわいい声。

 美しい容姿。


 聖女様!

 今からジャバウォックが遊びに行きますよぉ!

 イフリート王国から聖女様のいる島までは三十分くらいだ。

 今は王子がいないからもっと早く着くだろう。

 それにしても、オレがわざと髭で叩いてるのも知らずにバカな奴め。

 まぁ、そういうところがかわいいんだけどな。

 オレは王子が赤ん坊の頃からそばにいる。


 初めて王子がオレに乗った時は嬉しかったなぁ。

 小さい手で一生懸命オレにしがみついて。

 かわいかった……

 まぁ、今でもかわいいんだけどな。

 バカだけど。

 特に聖女様がいる時は真っ赤になって……


 早く告白してパートナーとしてイフリート王国に来て欲しいな。

 王子は、ああ見えて奥手だから……

 それにしてもベリス王子には気をつけないと。

 あいつは、聖女様を手に入れて次期魔王の座を狙うのが見え見えだからな。

 聖女様にベリス王子の事を教えてあげたいけど、オレは話せないから。

 王子はなぜかオレの言葉が通じてるんだよな。

 どうしてだろう?


 よし、もう少しだ。

 聖女様!

 早く会いた……


 ドン!


 何かがぶつかった!?

 ここは空だぞ!?

 一体何にぶつかったんだ?

 あれは……?

 ハーピー族!?


 すごい速さだ。


「ちんたら飛んでんじゃねーよ!」


 うわっ……

 文句を言われた?

 しかも、もういない?

 痛い!

 翼に怪我をした!


 ドボン


 しまった!

 海に落ちた!


 ダメだ!

 溺れる……

 オレ、泳げないんだ……


 ブクブク……


 あぁ……

 勝手に出て来たからバチが当たったんだ……

 王子……

 ごめん……


 沈んでいく……

 もう……

 ダメか……


「何やってんだ!?」


 え?

 誰かが身体を引っ張り上げた?

 この声は……


王子(グルル)……?」


「『王子』じゃないだろ? バーカ」


 王子……

 やっぱりオレの言葉が分かるのか?


「お前ら、陸まで運べ!」


 王子と……

 ジャバウォック族が二人?

 どうして?


「ったく! お前が勝手に出かけたのが見えたから追って来たんだ! あぁ! 服が汚れた! 父上にまた叱られる!」


 王子……

 

 涙が出てくる。

 あんなに小さかった王子が……

 こんなに立派に……

 

 一番近い島に運ばれたけど、ここは……

 聖女様の島……?


「あれ? 残念王子?」


 聖女様……

 残念王子って……

 最高のネーミングですね!


「今、残念って言ったのか?」 


 王子は怒ってるけど、本当に残念な王子だからな……


「うわぁ、痛そう」


 聖女様がオレの傷に気づいた?

 傷に手をあてられた……

 痛いっ!

 ギュッと目を閉じる。

 ……?

 おかしい。

 痛いはずなのに……

 痛くない?


「痛いの痛いの。だあれもいない遠くのお山に飛んでいけー!」


 え?

 何だ?  

 詠唱なのか?

 傷口が塞がっていく。

 これが聖女様の治癒の力!?

 すごい。

 温かくて……

 眠くなってきた……


 目を覚ますと、王子と聖女様の話し声が聞こえてくる。


「じゃあ、イフリート王子って呼ぶね」


「じ……じゃあオレはルゥって呼ぶぞ……」


「途中でママに会わなかった?」


「ママって誰だ?」


 ……?

 どうなっているんだ?

 仲良くなっている?


「あれ? 目が覚めた?」


 聖女様……

 傷を治してくれたのか。

 お礼を言わないと……


「グルル」

 

 通じないか……

 オレはジャバウォックの言葉しか話せないからな……


「『ありがとう』だってさ」


 え?

 王子?


「すごいね! イフリート王子は言葉が分かるんだ!」


「あ……当たり前だろ? 小さい時からずっと一緒なんだ。大事な家族だからな」


 王子……

 褒められて真っ赤になってる……

 ……オレが()()

 

 他のジャバウォック族には帰ってもらった。

 王子を運ぶのはオレの役目だからな。


 イフリート王国までの帰り道。

 王子は聖女様に褒められてご機嫌だった。


 王子はこういう奴なんだ。

 バカだけど優しくて温かい……

 家族……か。


 オレも王子の事を手のかかる弟だと思ってるよ……


「あ! オレも勝手に出て来たから後で父上に一緒に怒られような!」

 

 え……?


 こうして今日もオレは髭で王子を叩く。

 わざとだとバレないように。

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