マンドラゴラとプリンと絵本
「キャッ?」
「キュー?」
マンドラゴラの子供達がプリンを冷やしてある箱の前でスプーンを持って待っている。
何をしていてもかわいいけど、プリンを待っている時は最高にかわいいんだよね。
毎朝パパと作っていたプリンを、今はマンドラゴラ達も一緒に作っている。
小さいエプロンを着けて一生懸命お手伝いをしてくれる姿は、かわいいとしか言いようがない。
この世界には冷蔵庫が無いから魔法石で冷やせる箱を作ったんだ。
今は冷えるのを待っているんだけど、マンドラゴラ達は背伸びして箱の中を覗こうとしている。
かわいいなぁ。
「はーい。冷えたよぉ」
パパが箱からプリンを出してくれたね。
「キュー」
「キャッ」
「キュイー」
マンドラゴラの子供達が嬉しそうにしている。
……ん?
マンドラゴラの赤ちゃんが見覚えのある踊りを……
パパがプリンをテーブルに置いたから踊りをやめたけど……
うーん……
どこで見た踊りだっけ?
あ……
マンドラゴラ達がいつもの小さい椅子に座ってプリンをスプーンですくって食べ始めた。
かわいいっ!
他の子達は両手に乗るくらいの大きさだけど、赤ちゃんは片手くらいの大きさだから上手に食べられないみたいだ。
「はい。赤ちゃん、あーんして?」
食べさせてあげると嬉しそうに手足をバタバタさせている。
かわい過ぎるよっ!
ん?
椅子に立って、また変な踊りを始めた?
この踊り……
どこで見たんだっけ?
うーん……
思い出せないけど……
かわいいっ!
「ルゥがぁ赤ん坊の時を思い出すねぇ」
赤ちゃんを見ながらニコニコしているパパが懐かしそうに話し始めた。
「そうだな。この世の者とは思えないくらいかわいかったな。今もそうだが」
ママがプリンを食べながら嬉しそうに話している。
わたしも赤ちゃんの頃は食べさせてもらっていたなぁ。
毎日誰が食べさせるかで揉めていたのを思い出すよ。
「ルゥは赤ん坊の頃から、賢くてかわいくて最高だった。今もそうだが」
ママの顔がにやけている。
パパもほっぺたをピンクにしてニコニコだね。
この世界に来てから、ママもパパもずっとこうやって大切にしてくれる。
不思議だな。
魔族にとって人間は食糧なのに……
あ……
赤ちゃんがプリンを食べたくて口を開けて待っている。
考え事をしていたからボーっとしちゃった。
口にプリンを入れると嬉しそうにモグモグしてまた踊っている。
あぁ……
かわい過ぎるっ!
こういうのを幸せって言うんだろうね。
心が温かくなるよ。
この幸せがずっと続くといいな……
「姫様。気になる本があるのですが」
ダディがリビングに入って来たね。
幸せの島には、じいじがわたしの為に用意してくれた魔族用の絵本がたくさんあったんだ。
でもこの前の火事で焼けちゃって……
だから、じいじが同じ本を用意してくれたんだよね。
島にある絵本は全部ヴォジャノーイ族が主役だから他の種族を悪く書いてあったりする。
ダディには本が大きいからわたしが読みきかせをしているんだけど、魔族が書いた絵本だから残酷な場面もあるんだよね……
「何の絵本? 持って来るからプリンを食べて待っていてね」
「ありがとうございます。本棚の上の方にある『リヴァイアサンの愚か者ども』という本です」
あぁ、あの本か。
リヴァイアサン族の悪口が大量に書いてあったような……
「持って来るね」
家には本の部屋があって勉強の為の本も大量にある。
わたしが恥をかかないように礼儀作法やダンス、ヴォジャノーイ族の歴史の本を用意してくれてあるんだ。
ダディは勉強家だけど、歴史や礼儀作法より絵本の方に興味があるみたい。
「おまたせ。膝に来る?」
プリンを食べ終わったダディと子供達に尋ねると……
「はい!」
「「「キューイ」」」
返事がかわい過ぎるっ!
マンドラゴラ達を膝に乗せて絵本を読み始める。
『リヴァイアサンの愚か者ども』
むかーし、むかし。
ある所にかっこいいヴォジャノーイ族の戦士がいました。
超絶かっこいい戦士でした。
かっこいいヴォジャノーイ族の戦士は世界の全ての海を支配していました。
ですが卑怯なリヴァイアサン族に、かっこいいヴォジャノーイ族の支配していた海を奪われてしまったのです。
リヴァイアサン族は嘘つきで女好き。
皆が迷惑していました。
身体が大きいから海に出ると皆がとーっても迷惑していました。
陸に上がる事もできないうえに、見た目はドラゴンのようでも空も飛べません。
愚の骨頂です。
かっこいいヴォジャノーイ族の戦士は陸にも上がれ、とても強いので皆の人気者です。
かっこいいヴォジャノーイ族の戦士は幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
おしまい。
かっこいいって何回言うの?
愚の骨頂って……
子供の絵本だよね?
よほどリヴァイアサン族の事が嫌いなんだろうね。
でもこの絵本は嘘は書いていない。
リヴァイアサン族がヴォジャノーイ族から世界の半分の海を奪い取ったのは事実みたい。
じいじが王様になるずっと前だったらしいけど。
ヴォジャノーイ族は冷酷で残忍な種族なのにそんな事ができるなんて、リヴァイアサン族は強いんだろうな。
ヴォジャノーイ王は奪われた海を取り返そうとしているらしい。
大変な事にならないといいけど……
「姫様。愚の骨頂とは何ですか?」
ダディがつぶらな瞳で尋ねてきたね。
「これ以上ないくらい愚かな事……かな?」
「なるほど、リヴァイアサン族は愚かだという事ですね!」
うわ……
どうしよう。
会った事がないから、そうじゃないよとも言えないし。
「その通りだ」
じいじがお出かけから帰って来たね。
「じいじ、お帰りなさい。一緒にプリンを食べよう?」
じいじが帰って来たら一緒に食べようと思って待っていたんだよね。
「そうしよう。食べたら皆で温泉の島に行こう」
じいじが嬉しそうに話している。
マンドラゴラ達は温泉の島に行く準備を始めたね。
ウェアウルフ族が作ってくれた小さい桶に小さいタオルを入れている。
かわいいなぁ。
わたしは、じいじとパパとママと食卓を囲んでいる。
皆、笑顔ですごく楽しい。
家族団らんってこういう事なのかな?
そろそろウェアウルフ王とグリフォン王が遊びに来る時間だから一緒に温泉に入れるかな?
穏やかな風が吹く幸せの島。
今日もすごく平和だなぁ。




