ウェアウルフ王とグリフォン王
今回はウェアウルフ王が主役です。
わたしはウェアウルフ王。
手先が器用な獣人ウェアウルフ族の長であり、いくつもの種族を傘下に入れる『種族王』である。
誰もが、わたしの名を聞くだけで身震いする。
誰からも恐れられる王である……はず。
聖女様にお会いする為に二人の従者と毎日幸せの島に通っているのだが……
聖女様は、お美しくお優しく笑顔が最高にかわいらしい。
まさに、女神のようなお方だ。
天族は憎い。
遥か昔から因縁の仲だからな。
だが女神が美しいのは周知の事実だ。
……いや、聖女様の美しさの前では女神でさえひざまずくだろう。
この前は家を建てて頭を撫でていただいた。
嬉しくて思わずしっぽを振ってしまったが、誰にも見られていなかったはずだ。
今日も聖女様にお会いする為に海の運び屋のレモラ族に乗り、幸せの島に向かっている。
それにしてもヴォジャノーイ族の戦士達は肩たたきというものをしてもらっていたな。
手を握ってもらったり、抱きしめてもらったり……
あいつらの嬉しそうな顔ときたら……
うらやまし過ぎる!
わたしも今日こそは、やってもらいたい!
よし!
頑張るぞ!
ん?
あれは……?
幸せの島の上空でグリフォン王が聖女様を乗せて飛んでいる。
また背中に聖女様を……
うらやましい!
わたしも乗って欲しい!
「ウェアウルフ王、こんにちは!」
聖女様がグリフォン王と砂浜に降りて来る。
「聖女様、お土産です」
聖女様が大好きなウェアウルフ王国の果物。
一緒に食べ……
え?
グリフォン王が腹を見せて寝転んでいる!?
待て、見間違いだ。
あの厳格で常に凛々しいグリフォン王が……
そうだ、そんなはず……
……!?
肉球をプニプニされている!?
嘘だ!
嘘だ!
あのグリフォン王が……
グリフォン王の従者二人を見る。
きっと困り果てているはずだ!
厳格な王がこんな姿になっているとは……
……!?
従者まで腹を見せて肉球をプニプニされている!?
しかも幸せそうな顔……
うらやましいっ!
「王様、我々も撫でてもらいたいですっ!」
わたしの従者が、しっぽを振り興奮している。
お前達……
何という事を……
わたしも同じ事を考えていたっ!
よし!
今日こそは手を握って抱きしめて肩たたきをしていただくぞ!
「聖女様! わたしの背にもお乗りください!」
聖女様はフワフワの魔族の毛が好きだと言っていた。
聖女様にいつ撫でられてもいいように毎日ブラッシングして綺麗にしているんだ!
さぁ。
乗ってください。
「え……? あ、いやその……」
聖女様を困らせてしまった!?
何がいけなかったんだ?
「わたしがウェアウルフ王の背中に乗ったら王様は、よつんばいになっちゃうから。王様にそんな事をさせられないよ……」
聖女様あぁ!
なんとお優しい、麗しい、美しいっ!
最高だあぁ!
「ですが……我らウェアウルフ族も、その……撫でたり……その……」
ダメだ……
嫌だと言われたらどうするんだ?
今日は何の役にも立っていないのに。
グリフォン王のように空も飛べないし、島にもレモラ族に乗らないと来られない。
はぁ……
虚しくなってきた……
え?
聖女様が抱きしめてくれた?
柔らかくて小さくて……温かい。
「いつもありがとう。大好きだよ」
……!?
せ……聖女様!
嬉しくて、しっぽが勝手に動き出す。
揺れるしっぽを制御できない。
気がつくと、腹を上に向けて寝転んでいる。
「モフモフだぁ!」
そう言いながら、聖女様がわたしのお腹に顔をうずめている。
なんという快楽!
これ以上の幸せがあろうか?
グリフォン王の冷たい視線を感じながらも喜びを隠せない。
「楽しそうだな」
……え?
声の主を見上げると……
前ヴォジャノーイ王!?
しまった。
見られた。
殺される!
「うん。じいじ。モフモフなの」
せ……聖女様!
前王を刺激しないでください!
前王は聖女様に近づく男を嫌うんですっ!
……逃げよう。
世界最恐の前王に逆らえるはずがない。
この前も温泉の島を魔力で引っ張っていた。
あり得ない魔力量だ……
「聖女様、おじゃましました!」
慌てて波打ち際に行きレモラ族に乗る。
「さようならー! 聖女様あぁ!」
わたしの大声が幸せの島に響いた。
来年の今日は盛大に宴をするぞ!
今日はわたしのモフモフ記念日。




