ルゥの独り言と温泉~後編~
「ギュエー!」
マンドラゴラの大声が響き渡る中、じいじが冷静に話し始める。
「ほら、ルゥの欲しがった温泉だ。嬉しいか?」
マンドラゴラ以外が無言になった……
『こいつだけは敵にしたらダメだ』っていう表情で固まっているね。
島を移動させるなんてすごい……
精霊は、じいじの水属性の魔力を使いたい属性に変換しているだけなんだ。
使っている魔力自体は、じいじの力だから……
さすが世界最恐の魔族だよ。
とんでもない魔力量だ。
「ルゥ、どうだ? これでいつでも温泉に入れるぞ?」
この感じ……
褒めて欲しい時のおじちゃん達みたいだ。
「う……嬉しい……ありがとう……」
じいじが強い事は分かっていたけど、まさかここまでとは……
「そうか、そうか」
じいじが満足そうに微笑んでいる。
すごいよ。
あれだけの事をしたのに全然疲れていないみたいだ。
この後、ウェアウルフ族が入りやすい温泉に作り直してくれたんだけど……
元からあった小さい温泉に小さいテーブルと椅子、赤く光る小さい火山も誰かが作った物だよね?
これ……
勝手にもらって大丈夫なのかな?
その日の夕方___
「気持ちいいねー!」
皆で温泉に入っている。
誰が作った物かは分からないけど、温泉の誘惑には勝てなかったよ……
ウェアウルフ族のおかげで身体の大きいグリフォン族が三人入ってもまだ余裕があるくらい広い温泉になった。
帰って来たママも喜んで入っている。
羽毛が水をはじいてキラキラして綺麗……
パパは頭にタオルを乗せてピンクのほっぺたになっている。
魔族は普段温泉に入る事はないけど、温泉の気持ち良さを分かってくれたみたい。
群馬みたいに裸では入れないから、皆で服のまま入っている。
こんな姿を前世のおばあちゃんが見たら怒るだろうな。
『温泉でかけ湯しねぇなんて、ふざけてんのか!? 』って怒るくらいだから、服のまま入っているこの姿を見たら大激怒だね。
マンドラゴラ達は小さいから皆に抱っこしてもらっている。
魔族の皆はマンドラゴラ達をかわいがってくれているんだよね。
さっきも、火山は熱くて危ないからって近寄れないように柵を作ってくれたし。
ん?
マンドラゴラのお姉ちゃんがパパの腰巻きを引っ張っている?
どうしたのかな?
あぁ……
平和だなぁ。
皆がニコニコ笑っている。
この温泉の島は、幸せの島から少しだけ離れているからウェアウルフ族が橋をかけてくれた。
じいじが言った通り、これでいつでも入りに来られるね。
毎日温泉に入れるのか。
幸せだなぁ……
前世の時みたいだよ……
「じいじ、ありがとう。すごく嬉しいよ」
隣で温泉に入っているじいじにお礼を言う。
じいじのほっぺたも、パパみたいにほんの少しピンクになっている。
「これからは欲しい物があったら一番にじいじに言うのだぞ? 何でも手に入れて来よう。じいじに手に入れられない物はないからな」
手に入れられない物はない……か。
じいじが言うとなんだか怖いよ。
これからは独り言には気をつけよう……
皆、耳がいいからね。
その頃、元々温泉があった場所では___
「は!? どうなっているんだ!? 何で!? オレの温泉は!?」
温泉の島が突然なくなった事に愕然とする誰かがいた事をこの時はまだ誰も知らない。




