ルゥの独り言と温泉~前編~
今日は朝から涼しい風が吹いている。
じいじとママはお出かけ中。
マンドラゴラ達はガゼボでお昼寝。
ピーちゃんはパパと畑仕事。
わたしは朝の鍛錬中。
毎朝、三時間くらい剣と武術と魔術の鍛錬をしているんだけど……
涼しいとはいえ幸せの島は常夏だから汗が止まらないよ。
今日はじいじがお出かけしているから生きるか死ぬかの鍛錬じゃなくて楽だ。
この前なんてもう少しで……
思い出すだけで身体が震えてくるよ。
わたしに生き延びて欲しいから厳しい鍛錬をしてくれているのは分かるんだけど……
じいじと鍛錬している時が一番危険な気がするよ。
「はぁー。やっぱりお風呂はいいなぁ」
鍛錬が終わってお風呂に入る時が最高に気持ちいいんだよね。
そういえば詐欺師王子が温泉があるって言っていたな。
じいじに行きたいってお願いしようかな?
「温泉……入りたいなぁ」
わたしはすっかり忘れていた。
この幸せの島がどんな所かという事を。
わたしが望む事は、なにがなんでも叶えたい魔族達の集まり。
それがこの幸せの島だった……
今まではお風呂から出て日焼け止めを塗ってから外で洗濯して、剥がれた日焼け止めをもう一度塗って……の繰り返しだったけど今はウェアウルフ族が洗濯場に屋根をつけてくれたから日焼け止めがいらないんだよね。
洗濯が終わった後に一回塗ればいいだけだから楽になったよ。
さて、洗濯しよう。
パパの腰巻きとママのチューブトップとわたしの服、それと皆のタオルとシーツを洗うのがわたしの仕事。
洗濯せっけんを泡立てて洗うとシャボン玉ができて綺麗なんだ。
じいじは水の力で洗っているのかな?
ヴォジャノーイ族に洗ってもらっているのかも。
あれ?
ウェアウルフ族とグリフォン族が遊びに来ている。
毎日、王様達と従者二人ずつが来てくれるんだ。
仕事とかは大丈夫なのかな?
ん?
穴を掘っている?
まさか……
誰かを埋めるとかじゃないよね?
「ウェアウルフ王。何をしているの?」
「聖女様。おじゃましております。この辺りに作ろうかと思いまして」
作る?
新しいガゼボかな?
「今日中に作り終わりますのでお待ちください」
……?
今日中に?
「何を作ってくれるの?」
「聖女様ご所望の温泉です」
「……! 温泉!?」
作れるの!?
でも、この辺りは火山がないから温泉は湧かないんじゃ?
「少し離れた所に温泉が湧く島がありまして、そこから我々が湯を運びます。ぬるくなってしまうので温め直すのは魔法石を使いましょう」
グリフォン王が嬉しそうに話しているけど……
温泉のお湯を今掘っている穴に入れてくれるの?
でも……
「どうしてわたしが温泉に入りたいって分かったの?」
「先程、聖女様の声が聞こえてきましたので」
ウェアウルフ王が穴を堀りながら話しているけど……
さっきわたしが言った?
え……?
もしかしてお風呂の独り言?
聞こえていたの!?
そうか……
魔族は耳がいいんだった。
室内だし小さい声だったはずなのにすごいね。
魔族の皆はどれくらい遠くまで聞こえているんだろう?
「聖女様、どれくらいの大きさにしましょうか?」
大きさか……
そうだ!
「お湯を運ぶのが大変になっちゃうけど、大きいのがいいな」
すごく大きい温泉!
できるかな?
「いつも頑張っている皆と一緒に入りたいの」
……え?
わたしの言葉を聞いたウェアウルフ族とグリフォン族が泣き始めた!?
「聖女様あぁ! なんとお優しいぃ!」
「聖女様は女神様だあぁ!」
「女神なんかと一緒にするな!」
「どこまでも付いて行きますぅぅ!」
……あぁ、また始まった。
王様達まで泣いている。
魔族って優しいんだな……
「何をしているのだ?」
じいじがお出かけから帰って来たね。
「えへへ。王様達が温泉を作ってくれるの」
嬉しそうにするわたしに、じいじが不機嫌そうな顔になった?
あれ?
もしかして穴を掘ったらダメだったのかな?
「大きい温泉か……」
じいじが小声で呟いた?
怒っちゃったのかな?
あれ?
じいじが右腕を伸ばして魔法陣を描き始めた?
無理矢理呼び出された精霊が来ているみたいだけど……
ゴゴゴ……
激しい振動が……
まさか地震!?
海水も激しく波打っている。
「あれは!?」
ウェアウルフ王が遠くを指差して叫んだ?
確かに何か見えるけど……
え……?
島がこっちに向かって来ている!?
まさか……
じいじがやっているの?
「ギャアー!」
「ギュエー!」
マンドラゴラ達が怖くて泣き始めた。
これは……
小さい島の小さい火山からマグマが噴き出している。
それに、湧き出している水から湯気が出ている?
……まさか。
これが、さっき王様が話していた温泉の島!?




