残念王子の物語
『残念王子と詐欺師王子』でイフリート王子が主役のお話です。
オレ様はイフリート王国唯一の王子にして、次期魔王だ!
誰もがオレ様にひざまずき、ひれ伏す。
そう!
オレ様が偉いからだ!
それなのに……
前ヴォジャノーイ王め!
縄でぐるぐる巻きにして恥をかかせやがって!
思い出しただけで怖……いや、腹が立つ。
魔王の娘……
腰まで伸びた銀の髪。
青い瞳。
白い服が似合ってたな。
肌も雪みたいに白くて……
泣いた顔もかわいかった。
また会いたいな。
でも前ヴォジャノーイ王は怖いし……
家を壊したし……
魔王の娘も怒ってるだろうな。
「はぁ……」
「どうしたのですか? ため息なんかついて。聞きましたよ? 縄でぐるぐる巻きにされたのですよね。大丈夫でしたか? それから……」
こいつは本当におしゃべりだな。
いつもずっとしゃべっている。
ベリス王国の王子なんだが……
このベリス族は嘘ばかりつくし調子が良い事ばかり言ってくる。
でも鉄とかを金に変える力があるから傘下に入りたがる奴らが大勢いるんだ。
前魔王との戦いの時にオレの国と、こいつの国が手を組んでから行き来するようになった。
真面目な父上とこの嘘つきのベリス族の王が仲良くしてるなんて不思議だよな……
ちなみにベリス王国は全部が金でできている。
趣味悪いな……
普通ならそう思うところだけど、上品に見えるのが不思議なんだ。
「どうしたのですか? 元気がないですね。何か心配事でもあるのですか?」
う……
バレてるか……
「魔王の娘に会って来たんだ。島を火の海にして……悪い事をしたなって……」
いつも笑っているベリス王子が一瞬真顔になった?
……?
気のせいか?
「謝りに行きませんか? わたしも付いて行ってあげますよ」
え?
一緒に?
一人で行くより心強いな。
でも……
どうして一緒に来てくれるんだ?
うーん……
まぁ、来てくれるって言うんだから来てもらえばいいだろ。
よし、今から出発だ!
って、出て来たのはいいがやっぱり心配だな。
嫌われてるだろうし。
こういう時は最初の一言が大切だな。
さて、何て言うか?
ジャバウォックの背中で必死に考える。
ジャバウォックは小さめなドラゴンだ。
ナマズみたいな髭が生えている。
空を飛んでいる時にピロピロ当たって正直邪魔だ。
ん?
ジャバウォックが背中に乗るオレを振り返って見た?
何だろう?
髭が当たるのを見て笑った!?
こいつ……
やる気でやってるんじゃないよな?
もうすぐ着くか……
島が小さく見えてきた。
ん?
あれは?
何か飛んでいる?
グリフォン王じゃないか?
魔王の娘が背中にいる?
何で背中に乗って空を飛んでるんだよ?
グリフォン族はプライドが高いからあんな事はさせるはずないのに……
どうなっているんだ?
ジャバウォックと砂浜に降りる。
「おい! 魔王の娘! お前何に乗ってたんだよ! あれ? 見た目が違うぞ?」
魔王の娘がオレを残念そうな目で見ている。
島にいる魔族は殺気を放っている。
「まぁ、そう警戒しないでください」
ベリス王子が話し始めた。
これは長くなるぞ。
「わたしは、ベリス王国の王子です。はじめまして、お美しい聖女様」
うわ。
そういえばこいつ、やたら女にモテるんだった!
魔王の娘もこいつの事を好きになるかも!
どうして連れて来たんだ!
オレのバカ!
「お気をつけください。こいつは……」
そうだ!
ウェアウルフ王、教えてやれ。
ベリス王子の女好きは有名だからな。
「聖女様はお美しいですね。まるで宝石のようです」
ウェアウルフ王の話をわざとさえぎった!?
種族王だぞ!?
「聖女様はお好きな食べ物は……」
こいつ、落としにかかってる。
オレが惚れてるって知ってるのに!
「聖女様は良い香りがしますね。少し遠いですが温泉が……」
良い香り!?
こいつ、いつの間に匂いなんか!
魔王の娘……
完全にベリス王子に惚れたはずだ。
こいつは秒で女を落とすからな……
恐る恐る魔王の娘を見る。
あれ?
あきらかに不機嫌な顔をしている!?
どうしてだ?
男のオレから見ても、いい男なのに……
「聖女様の明日の予定は……」
ベリス王子は警戒されてないか?
不審の目で見られてるぞ?
「じいじを呼ぶよ!?」
ずっと黙っていた魔王の娘が口を開いた?
……!?
え?
前ヴォジャノーイ王?
呼ぶのか?
……まずい。
逃げないと……
「え? じいじとは?」
ベリス王子は知らないのか。
『じいじ』があの『前ヴォジャノーイ王』だって。
まずい。
王宮中の家具を奪い取られた時、父上にさんざん叱られたんだ。
「オ……オレ、帰る」
慌ててジャバウォックに乗る。
振り返ったジャバウォックが、残念そうな目で背中にいるオレを見てくる。
怖いんだよ!
仕方ないだろ!?
「おや? イフリート王子は帰るのですか?」
帰るに決まってんだろ!
ジワジワされたんだぞ!?
「聖女様、それで明日の予定ですが……」
まだやってる。
もうどうなっても知らないぞ……
「じいじー! 変な人がいるよー! わたしが良い匂いがするって言っているよー!」
魔王の娘が大声で叫んだ!?
「え? 聖女様? どうされ……」
ベリス王子が魔王の娘に手を伸ばした。
うわ……
いつの間にかベリス王子の背後に前ヴォジャノーイ王が立っている……
あいつ……終わったな。
「え……? 前ヴォジャノーイ王……?」
「さて、どうしてやろうか?」
うわ。
先に逃げてて良かった。
今度は一人でこっそり会いに来よう。
その時は絶対に謝るぞ!
「うわあぁ!」
ベリス王子の悲鳴が聞こえてくる。
うわ……
……今度は前ヴォジャノーイ王がいない時に来よう。
かなりの速さで飛んで逃げる。
ジャバウォックの髭がムチのようにオレを叩いている。
時々、ジャバウォックが振り返ってオレを見る。
やっぱり髭で叩かれるオレを見て、にやけているぞ?
こいつ……
わざとなのか?
オレの心に疑念が湧いた。




