寂しい気持ちとモフモフラブが増量中!?
「ルゥ……そろそろ支度をしないとな」
ハデスの優しい声に心が落ち着く。
「うん……泣いちゃってごめんね。ハデス? 怪我はしなかった? ペルセポネの身体は見つかったのかな?」
「あぁ……わたしに怪我は無い。ペルセポネの身体は今は天界のデメテルの宮殿にある」
「お母様の宮殿に……身体にはすぐに戻れるのかな? 無事だったの?」
「戻る……?」
「あ……あのね? ペルセポネの時の記憶が全部戻ったみたい」
「そうか……戻ったか」
「……うん」
「……? どうした?」
「ファルズフはペルセポネの最期の時の事を話したの?」
「いや、話さなかった」
「そっか……じゃあ、辛い話になるけど、聞いて欲しいの」
「あぁ……教えて欲しい……」
それから、わたしは過去の出来事を全て話した。
第三地区の皆も、浄化に付いて来てくれる魔族の皆も最後まで静かに聞いてくれた。
全てを話し終えると魔族の皆が怒り出した。
「ハデス様! そいつを連れて来てください!」
「皆で殺ろう! 絶対に赦さない!」
「誰が一番愚かなのか教えてやる必要がある!」
うわあ……
やる気満々だね。
でも、ハデスが生かしておくはずがないよ。
きっと、もう……
「それは無理だ。ファルズフは自害した。最も苦しい方法でな」
ハデスの言葉に今まで騒いでいた魔族達が静まり返る。
そういえば、いつもは邪魔だからって隠している翼が出ているね。
赤黒い血に染まった翼……
それに、顔つきもいつもより凛としている。
これがハデスの本来の姿。
死者の世界の王……冥王ハデスか。
「自害……? そんな狡猾な者が自害なんて……」
ん?
んんっ?
んんんっ!?
グリフォン族!?
久しぶりに見たよ!
しかも……かわいいっ!
世界一周の旅に出たグリフォン王を少し小さくしたみたいな感じで、パートナーさんのかわいさもしっかり受け継いでいる……
確実にグリフォン王の子の……現グリフォン王だ!
初めて会った!
かわいいっ!
……!?
何?
前よりもモフモフに対する興奮度が増している!?
まさか、ペルセポネの感情!?
わたしの上を行く変態だったの!?
「(嘘だよ。そんなはずない。何? この気持ち……我慢できない。待って? よく見たら今第三地区にはモフモフがいっぱいだよ? 何なの? パラダイスなの? モフモフパラダイスなの? ふふふ……興奮が止まらないよ)」
「……ルゥ? どうした? 具合が悪いのか? シームルグをもう一度呼ぶか?」
小声でブツブツ言うわたしを心配したハデスが話しかけてくる。
全て聞こえた耳のいい魔族達が、いつも通りのわたしの姿に微笑んでいる。
「なんだ? 具合が悪いならオレがヨータを連れて来てやるよ」
ヒヨコちゃんの姿のベリアルも心配して膝に飛んで来る。
「……(何なの!? ベリアルのかわいさが大増量している!? )」
「……え? ルゥ、お前今何て言った……? まさか! 罠か!?」
「ふふふ……罠じゃないよ? ベリアルが自ら飛び込んで来たんだよ?」
「は? お前……変態度が増してるぞ!?」
分かっているよ。
わたし自身が一番よく分かっているんだよ!
ヒヨコちゃんのベリアルを優しく、でも絶対に逃げられないように抱き上げる。
「もう、掴まえちゃったから吸われるしかないねっ!」
ベリアルのお腹に顔をうずめる。
「うわあぁ! 誰か助けろ! 待て! ハデスが見てる! 怖い顔して見てるうぅぅ!」
「あははは! ルーはルーだなぁ!」
「聖女様……お元気になられて……良かった」
「変態もご健在だなぁ! あははは!」
皆の安心する声が聞こえてくる。
「月海……もう大丈夫なの?」
お父さんが心配そうに見つめている。
「うん! ベリアルを吸ったから元気いっぱいだよ!」
だから、もうそんな辛そうな顔をしないで?
わたしはもう大丈夫だから……
「そうか……良かった……本当に良かった」
お父さんが優しく髪を撫でてくれる。
もう少しでルゥの身体とお別れするんだね。
それから……一年の三分の一を冥界で過ごすのか。
四か月も皆に会えなくなるんだね。
寂しくなるよ……
「月海? どうしたの? やっぱり身体が辛い?」
お父さんが心配そうに覗き込んでくる。
「あ……ううん? 違うの。四か月も皆に会えないのが悲しくて……」
ハデスと一緒にいられるのは嬉しいけど、やっぱり悲しいよ。




