ペルセポネの死の真相~後編~
「自害した身体は消滅する。だからね? 消滅したと見せかけてわたしが水晶に入れてこっそり持ち帰るんだよ……ペルセポネの肉体をね」
「……死体と暮らすつもり? 愚かな……」
「死体でもいいんだよ? わたしだけの物にしてあげるからね。これでやっと二人だけで暮らせるね」
「お前だけの物……?」
「ふふ……肉体から魂を抜く事ができるのは大天使以上の神力の持ち主だけだからね。わたしにはできないんだよ。デメテルはペルセポネの魂を違う身体に入れる為に魂を抜くはずだよ? そうなると魂の無い身体は特別な神力が無いと傷むんだよ。でも、安心して? わたしが水晶に入れて永遠に美しい姿のままにしてあげるから」
「何を……言っているの?」
「愚かなデメテルとゼウスは、わたしの手のひらの上でわたしの思い通りに動くはずだよ? 天族は死ぬと強制的に冥界に行くだろう? でも自害した天族は消滅する。もうひとつ冥界に行く事ができないのは……魂と肉体の両方が揃わない時。つまり魂が抜かれたペルセポネは冥界には行けないんだ」
「……」
「ああ……苦痛に歪む顔もかわいいね。ゾクゾクするよ。でも……新しい身体に入ったペルセポネには……興味が湧かないな。ペルセポネ以上に美しい姿はあり得ないからね」
「……」
「ああ……しまった。ザクロの呪いがあったか……そうだ! ハデスがいない冥界で二人で暮らそう。そうすれば呪いも関係ないからね。ふふっ……」
「……冥界には行けないって……言っていなかった?」
「そうだよ? でも、安心して? わたしが持ち込んであげるから。水晶としてね?」
「ハデス……」
「おや、醜いカエルを呼ぶなんて……」
「ハデスは醜くなんてないわ。……世界一素敵な人よ」
「……では、その素敵な醜いカエルに呪いをかけてあげよう。まあ、あり得ないだろうが、醜いカエルのハデスを愛する者が現れたら、その醜さに意識を失う呪い……なんてどうかな? 滑稽だな! あははは!」
「……滑稽なのはお前だ。わたしの魂が……この身体から抜け出るのなら……わたしは……必ずハデスの元に行く……」
「……もう少し深く刺そうかな? 冥界に行ってから悪い子になったみたいだね。お仕置きが必要だ……」
……!
痛いっ!
砂浜に膝から崩れ落ちる。
今のは……ペルセポネの記憶?
酷いよ。
ファルズフはペルセポネを好きだったんでしょ?
こんなのおかしいよ!
手に入らないから命を奪うなんて、そんなの酷過ぎるよ!
辛かったね……
ペルセポネ……
教えてくれてありがとう。
勇気を出して辛い記憶を蘇らせてくれたんだね。
……ペルセポネはすごいよ。
本当にハデスの元にたどり着いたんだ。
ルゥ……
わたしはルゥでルゥはわたしよ?
ペルセポネ……
うん。
わたしはペルセポネでペルセポネはわたし……なんだね。
……あぁ。
ペルセポネの遥か昔の記憶が全て蘇ってくる。
わたしにデレデレのお父様に、いつも優しいお母様。
ふふっ……
心が温かい。
あれ?
いつの間にか空が明るくなってきているね。
砂浜に座り込んでいるわたしの元に魚族長と前ウェアウルフ王のお兄ちゃんが駆け寄って来る。
「聖女様!」
「姫様! 大丈夫ですか?」
「……うん。ペルセポネがね……全部教えてくれたの」
「聖女様……そうですか……お身体は大丈夫なのですか?」
お兄ちゃんが抱き上げて広場の椅子に座らせてくれる。
「ありがとう……」
あれ……?
涙が止まらない……?
「姫様……」
魚族長が心配してオロオロしている。
「わたし……やっと……ハデスに会えたの。もう……離れない。ずっと一緒に……」
ダメだ……
泣いて上手く話せない……
「あぁ……これからはずっと一緒だ」
この声は……
ハデスが少し離れた場所からゆっくり歩いて来る。
「ハデス……」
「もう離れない……ずっと大切にするよ」
ハデスが椅子に座るわたしを抱きしめる。
「うん……うん……」
涙が止まらない……
ハデス……
愛してる……
ずっと……逢いたかった。




