ペルセポネの帰還~後編~
今回はハデスが主役です。
ペルセポネを入浴させると、昔の記憶が溢れてくる。
あぁ……
ペルセポネ……
まさか、また会えるとは……
だが、ルゥはどう思うだろう。
また、わたしがルゥの中にペルセポネを見ていると考えて、辛くなってしまうかもしれない。
わたしは、どうしたら……
ペルセポネ……
美しい。
白く柔らかな髪。
長いまつ毛。
今は閉じているが、青い瞳がまるで美しい海のようだった。
ペルセポネの魂が長い年月を経てルゥになったのか……
「ペルセポネ……? ペルセポネはわたしに会う為に異世界をさまよっていたのか? ずっとわたしを捜していたのか? それとも……」
ペルセポネの柔らかい唇に優しく口づけをする。
「すまなかった……何千年もかかってしまった。ペルセポネ……寂しかったな……」
湯浴みを終え服を着せるとデメテルが浴室に入って来る。
「ありがとう。ハデス。助かったわ。……後は任せて? ルゥが浄化に出発する頃よ?」
デメテルが優しく微笑む。
「……あぁ、もうそんな時間か……」
「ハデス?」
「あぁ、何だ?」
「ルゥの身体はもう限界よ? わたしはルゥの母親の妊娠が分かってから……ルゥと、兄のヘリオスを母の無い子にしない為に神力を注いだわ。だから……ルゥの身体も実の娘のように思っているの」
「そうだったな。デメテルは陰ながら二人を守ってきたのだな」
「ルゥの魂の無い身体は、人間だから天界には入れないわ。できれば手元に置いてゆっくり休ませてあげたかったけれど……幸せの島で眠っている方がルゥの身体も嬉しいはずよ? わたしが見てきたルゥは、いつも幸せの島で笑っていたもの……」
「デメテル……ありがとう。ルゥが生きてこられたのはデメテルのお陰だ」
「ハデス……ルゥの魂がペルセポネの身体に入れば、もう神力を注ぐ必要はなくなるわ。それまでは、わたしがペルセポネの魂の無い身体に神力を注ぐわ……ルゥとヘリオスの母親にしていたように……懐かしいわ」
「もう十五年か……」
「そうね。ルゥとヘリオスはもう十五歳になったのね。あっという間だったわ」
「あぁ……赤ん坊のルゥが突然現れて、それからは毎日が賑やかで……そして、今はとても……幸せだ」
「ええ、そうね。ハデス……? 気づいていないかもしれないけれど……」
「……? 何だ?」
「あなた、すごくいい顔をしているわ?」
「……いい顔?」
「ええ。天界にいた時とは全く違うわ? 穏やかで優しい顔よ? ふふっ。素敵だわ」
「……そうか」
穏やかで……優しいか。
確かに、天界にいる時は父親に飲み込まれたり、戦があったりで大変だったからな。
冥界に行ってからは、それなりに穏やかに暮らしていたが……
死後の世界の王だからと恐れられるようになり、あまり天界にも行かなくなった……
ペルセポネと暮らすようになってからは、わたしも笑うようになったが、あんな事になって……
ヴォジャノーイ族に憑依して、ルゥのじいじとして過ごすうちに、わたしの疲れきった心が癒されていったのだな。
さぁ、ルゥの元に戻ろう。
わたしを心配して待っているはずだ。




