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冥王ハデス、完全復活~前編~

今回はハデスが主役です。

「「「冥王様!?」」」


 突然冥界に現れたわたしに、ケルベロスの三つの頭が大声を出して驚く。


「ケルベロスよ。わたしがいなくなった後の数千年、変わった事は無かったか?」


「変わった事……ですか?」


「あぁ。例えば……死者ではない天族が潜り込んでいるという事はないか?」


「……? 冥王様が依頼した者しか生者はいませんが?」


「わたしが頼んだ? 何の事だ?」


「冥王様が行方不明になられてすぐに、冥王様に頼まれたと天界の医師が……違うのですか?」


 ルゥの言った通りだな。

 ファルズフは冥界にいたのか。


「わたしがいなくなった後すぐ……? 今、その者はどこにいる?」


「え? 最南端の……小高い丘の上に小さな家を建てて暮らしていますが?」


「そうか。最南端か。分かりやすい場所だな。空間移動しやすい」


 ペルセポネ……

 今すぐ助けに行くからな。


「え? 冥王様? どうされたのですか?」


「ペルセポネの奪われた身体があるはずだ」


「ペルセポネ様の身体? それは、どういう……?」


「時間が惜しい。わたしは行くぞ」


「え? 冥王様!? わたしも連れて行ってください!」


 ケルベロスは天族ではないから空間移動はできない。

 久しぶりの複数人での空間移動か……

 身体が裂けないといいが……


 ……無事着いたか?

 幸せの島に帰ったら空間移動の練習をしておこう。

 いざという時に大惨事になったら困るからな。


 なんとか無事に空間移動を終えると、ケルベロスが少し離れた場所を指差す。


「冥王様、あの建物です」


 五メートル程離れた場所に小さな建物が見える。


 あそこにペルセポネがいるのか?

 本当にファルズフが暮らしているのか?

 ペルセポネの身体を隠していたのなら、混乱するわたしや神やデメテルの姿を見てあざ笑っていたのだろうな。

 

 家の前まで行くと、物音に気づいた男が中から出て来る。


「……これは……ハデス様……?」


 この男がファルズフなのか?

 考えてみれば会った事がなかったな。

 なぜわたしを知っている?

 天界には、冥王になってからほぼ出入りした事は無かったが……


「……お前は、ここで何をしている?」


「え? あの……わたしは……この冥界で身体の不調のある者の治療をしております」


「……ほう。名は何という?」


「名……ですか?」


「あぁ。そうだ。お前の名だ……」


「名乗る程の者ではありません。わたしは、ただこの冥界でお役に立てれば……と。善意で……」


「ほう。善意で……か」


「はい」


「ここには一人で暮らしているのか?」


「……はい。わたしは独り身ですので……」


「そうか」


 一見、優しそうな好印象の男だが……

 ルゥが前に言っていたな。

 悪い奴程よく笑う……とな。

 己の罪や悪意を隠す為に笑う……か。


「あの……行方不明になられたと……もう大丈夫なのですか?」


「……ああ。大丈夫だ」


「……そうですか。それは何よりです」


 らちが明かないな。

 だが……

 家の中を調べたいと言えば怪しまれ、ペルセポネの身体に危害を加えられるかもしれない……

 

 ……?

 

「ふっ……」


 思わず笑いが込み上げる。


「え? ハデス様?」


 突然笑うわたしに、男が困惑する。


「ダメだな。長い間、魔族として暮らして来たからな。すっかり甘くなってしまった。そうだ……わたしはハデス。冥王ハデスだ……」


 闇に近い黒いモヤが身体から溢れてくる。

 血で赤黒く染まった翼が背中に現れ、黒い瞳が赤黒く光る。


「……おい。お前はファルズフだな? ペルセポネの身体はどこだ? お前には、今まで誰も味わった事のない苦しみを与えてやろう」


 そうだ。

 わたしは、冥王……

 冥王ハデスだ。

 こんな奴に臆する事などあり得ない。

 さぁ……

 死を懇願する程の恐怖と苦痛を与えてやろう……

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