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笑顔に隠された感情

今回はハデスが主役です。

「ルゥはおばあさんと休んだ方がいい。明日は最後の浄化だからな。それが終わったらのんびり過ごそう。身体が弱っているからな……」


 ルゥの髪を優しく撫でる。


「うん。気をつけてね? 約束だよ?」


 約束か……

 そういえば前に、リコリス王である兄と小指を絡めて、指切りとやらをしていたな。


「ルゥ……約束しよう」


 ルゥの前に右手の小指を立てて差し出す。


「……ハデス。うん。無事に帰って来てね? 約束だよ?」


 絶対に帰って来る。

 数千年前のあの時のように、離れ離れにはならない。

 必ずペルセポネの身体を見つけて来るからな。

 今度こそ幸せになろう。

 もう誰にも邪魔はさせない。


 ルゥの小さくかわいい小指が、わたしの差し出した小指に絡み付く。


 守りたい。

 守るのだ。

 今度こそ。

 ペルセポネ……

 ルゥ……

 わたしの生きる理由の全ては、この二人の為にある。


「時間がかかるかもしれない。間に合わなければ……ヴォジャノーイ王……我が甥よ。ルゥを頼めるか?」


「お任せください。必ずや伯母上をお守りします」


 あぁ……

 立派に育ったな。

 ルゥに出会う前は、この甥だけがわたしの生きる理由だった。

 もうわたしの助けは必要無いのだな。

 まさか、あの幼かった甥に頼る日が来るとは……

 妹よ……

 お前の息子は立派に育ったぞ……

 わたしの役目は終わったな。


 こうして、わたしはウリエルの案内で天界のファルズフの監禁場所に向かった。

 


「ハデス……待っていたわ」


「デメテル?」


 建物の入り口の前にデメテルと、神である弟が立っている。


 天界から水晶で見ていたのか。

 ヘラとヘスティアは……いないようだな。

 あの二人は怒ると手に負えないからな。


「ハデス……ルゥの言う通りだったわ。ファルズフはこの場所には、いないわ」


「デメテル? 既に捜索したのか。隠し部屋は無いのか? ペルセポネの身体は……?」


「……ヘラとヘスティアが隅から隅まで全てを調べたわ。二人共かなり怒っていてね。壁は壊すし扉は破るしで……ペルセポネの身体があったらと思うと気が気じゃなかったわ」


 来ていたのか……

 今は……静かだな。

 破壊し尽くしたのか?


「……ハデス。ペルセポネの身体は、きっと冥界よ? わたし達が冥界に行くには手続きが必要なの。二日はかかるわ?」


「あぁ。ケルベロスが冥界に戻っているからな。二人で冥界の隅々まで捜して来よう。必ず見つけ出す」


「信じているわ。ごめんなさい。全てわたしのせいよ。わたしがあの時、二人を許していれば……」


「デメテルのせいでは無い……長い時間はかかったが……もう二度と離れない。今度こそ幸せになる……」


「ペルセポネの身体がどんな状況か分からないから……見つかったら一旦天界に戻って来て。陽太を連れて来るから」


 ……弟よ。

 神でも自由に冥界には出入りできないからな。  

 歯がゆいだろう。


「あぁ……行って来る」


 ガラガラ……


 激しい音と共にファルズフの邸宅が崩れ落ちる。

 砂ぼこりが舞い上がる。


「嫌だわ……もろい建物ね」

「本当にその通りよ。あら? ハデスが来たのね」


 ヘラとヘスティアが砂ぼこりの中から現れる。


「……問題にはならないのか?」


 音に気づいた者達が集まって来たぞ?


「大丈夫。監禁対象が勝手に抜け出していたのよ? それを発見したんだからお手柄よ?」


 ヘスティアがニッコリ笑うと、集まって来た者達がうっとりと見とれている。

 

 この作り笑顔に気づかないとは……

 ヘスティアは美しく優しいが、姉弟の中で一番敵に回してはいけない程恐ろしいのだ。

 

「……そうか。ならいいが」


「ハデス、絶対にペルセポネを見つけて来てね? それから、ファルズフを殺害してはダメよ? それでは死後の世界の冥界に行ってしまうから。自害させないと……分かるわね?」


 ヘスティア……

 美しい容姿で微笑んでいるが、言っている事は恐ろしいな。


「分かっている。自害させ、魂も肉体も消滅させる。二度と悪さができないようにな」


 こうして、わたしは冥界に戻った。


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