皆でかくれんぼ~前編~
「聖女様……聖女様は我らウェアウルフ族の建てた家がお気に召さなかったのでしょうか?」
もう一度建ててもらったガゼボの中でウェアウルフ王が寂しそうに話しかけてきた。
え?
あの立派な建物を?
「そんな事ないよ。すごく素敵だよ。ありがとう」
「大きければいいってもんじゃないですよ。ねぇ、姫様」
ヴォジャノーイ族のおじちゃんが、わたしに肩たたきをされながら優越感に浸っている。
確かにおじちゃん達が建てた家に住んでいるけど……
使わないのはもったいないよね。
せっかく建ててもらったし。
うーん……
そうだ!
「今から、皆でかくれんぼしない?」
魔族の皆が何だか分からない顔をしている。
そうだよね。
日本の遊びだし。
「あのね、まず鬼を決めて……」
あれ?
鬼はこの世界にはいないかな?
鬼……
強い……
あ!
「魔王を決めるの」
ガタン!
ガゼボの椅子から皆が立ち上がった?
「姫様。ついに……」
「我らウェアウルフ族はいつでも聖女様の傘下に入ります!」
「聖女様! グリフォン族もどこまでも付いて行きます!」
あぁ……
わたしが魔王になるって勘違いさせちゃった。
「そうじゃなくて、皆を捜す人を一人決めるの。他の人は隠れて見つからないようにするの。見つかってタッチされたら負けなんだよ。全員見つけたら、捜す人の勝ちなの」
説明だけだと難しいかな?
一回やってみた方が分かりやすいかも。
「一回、わたしが捜す人でやってみよう?」
こうして、地獄のかくれんぼ大会が幕を開けた。
今、幸せの島にいるのは、パパ、わたし、マンドラゴラ達、ピーちゃん、ウェアウルフ族の三人とグリフォン族の三人、ヴォジャノーイ族の三人。
計十六人。
数は多いけど大丈夫だよね。
「ルールを説明するよ。ウェアウルフ王が建てた家からは出ない事。三十数えたら、わたしが捜しに行くから全員がタッチされたらおしまいだよ」
「「「はーい」」」
「じゃあ、いくよー。いーち。にーい……」
皆が隠れている音が聞こえてくる。
マンドラゴラの子供達が小声で『キャー』って言いながら隠れているね。
かわいいな。
「……三十! よーし! 捜しに行くよ!」
あぁ……
マンドラゴラの子供達がまだ歩いている……
かわいいけど……
ごめんね。
「子供達、みーつけた!」
優しくタッチする。
バスケットに入ってもらって連れて行こうかな?
ここにいてもらうわけにも……
「姫様! わたしはここです! タッチしてください」
「聖女様! わたしはここです!」
「聖女様あぁ!」
……?
え?
かくれんぼ……だよね?
出て来ちゃダメでしょ?
「残りは、パパとダディとピーちゃんだけか……捕まった皆は、ここで待っていてね」
「「「はーい」」」
子供達が入ったバスケットもおじちゃんに預けて来たし。
さて、三人はどこかな?
全部の部屋の扉を開けて捜そう。
ガチャ
いない。
ガチャ
いない……ってちょっと待って?
家具が豪華過ぎない?
これもしかして、この前の残念王子の国から奪って……いや、もらって来たやつ?
うわ……
じいじ……
本当にもらって来たんだよね?
奪い取ったんじゃ……?
カタン
ん?
音がした。
パパかな?
ダディかな?
ピーちゃんかも。
音がした箱をそーっと開ける。
……?
何かと目が合った?
怖……
何なの?
まさか……オバケ?
目は合ったけど反応はなかったよね?
気づかれないように箱をそーっと閉めないと……
って……
怖過ぎるよ……
「キャーー!」
家中にわたしの悲鳴が響く。
「姫様!」
「聖女様!」
皆が慌てて部屋に入って来る。
「は……箱の中に何かいる!」
怖いよ。
目が合った!
イフリート王国から何か入ったまま持って来ちゃったのかも……
もしかして、先代とか先々代の王様の棺とか!?
「姫様を怯えさせるとは! 赦せん!」
ヴォジャノーイ族のおじちゃんが箱を開ける。
さすが海の支配者のヴォジャノーイ族だね。
「うわあぁ!」
慌てて箱を閉めた!?
やっぱり何かいるんだ!
怖いよ。
「やれやれ、ヴォジャノーイ族が悲鳴をあげるとは……ここはウェアウルフ王である、わたしにおまかせください」
ウェアウルフ王が豪快に箱を開けた。
さすが種族王だよ。
ん?
身体がビクッてなった?
静かに箱を閉めたよ?
「あれ……? ウェアウルフ王?」
あきらかに身体が震えている。
「わたしが開けよう」
グリフォン王が猫みたいなかわいい肉球で箱をチョンチョンと開けたね。
「うわあぁ!」
中を見て悲鳴をあげた!?
箱が開いたままになっちゃったよ!?
皆が一斉に箱から離れる。
「ううう……」
箱から声が聞こえてくる。
生きているの!?
怖いよ!
箱から出て来ちゃうかも!




