マリモは嫌だよ……
「星治! やめろ! 月海が苦しがってるぞ!?」
その場に座り込むわたしに、おばあちゃんが駆け寄って来る。
「……え? 月海!?」
いつものお父さんに戻ったの?
「おい……まずいんじゃないか? 内臓がやられたみたいだぞ?」
わたしに抱っこされているベリアルが深刻な顔をしている。
「月海……ごめん……どうしたら……」
……お父さん。
落ち着いたみたいだね。
良かった……
「陽太を呼んで来ないと! 天ちゃん! 見てるんだろ!? オレらを第三地区に帰らせてくれ! それから、陽太を……」
吉田のおじいちゃんの声が……
ダメだ……
意識が遠のいて……
あれ?
ここは……?
第三地区のおばあちゃんの家……?
おばあちゃんの布団で目を覚ます。
う……
身体が痛くて起き上がれない……
「どうして治らないんだ?」
「ワカラナイヨ。デモ……」
あれ?
この声は……
ピーちゃん?
帰って来てくれたの?
治らない?
もしかして……
わたし……死ぬの?
「う……」
苦しくて痛くて声が漏れる。
「ルゥ!」
「月海!」
ハデスとお父さん……?
どうして、そんなに悲しそうな顔をしているの?
「月海……ごめん……ごめんね。全部お父さんが悪いんだ……」
「ルゥ……落ち着いて聞いて欲しい。もう、ルゥの身体は限界を迎えたようだ……ずっと無理をしてきたからな」
ハデス?
やっぱり、わたし……死ぬの?
「ゴメンネ。ルーチャン」
あぁ……
ピーちゃん……
やっと会えたのに……
これで最後なの?
「オレが粘土で身体を創ってやるから、そこに入れ!」
ベリアル……?
あぁ、そうか。
お父さんの身体もベリアルの粘土で創ったんだ。
ベリアルはヒヨコちゃんの翼で創れないからウェアウルフ族の皆が手伝ってくれたんだよね。
ん?
あれ?
こたつで粘土をこねているのは……
ベリアルとお父さん……?
二人が創るの?
ちょっと待って?
確か、前世で群馬にいた時におばあちゃんが言っていたよね?
「月海の絵は星治が描いた絵にそっくりだなぁ! あははは」
……っていう事はわたしの酷過ぎる絵心はお父さん譲りだよね。
しかも、ベリアルはヒヨコちゃんの翼で創る……
ウェアウルフ族の皆は!?
どこにいるの!?
「……残念だったなぁ。狼人間の兄ちゃん達はさっき星治を止める為に無理をして腕が震えちまってるんだ」
吉田のおじいちゃん!?
そうか。
吉田のおじいちゃんはお父さんの手先の不器用さを知っているんだね。
……ルゥの身体に悪い事をしちゃったな。
おばあ様にもお兄様にも申し訳ないよ。
「ほら、できたぞ? ルゥの新しい身体だ!」
「お父さん頑張ったよ! ほら! 月海、見て!」
え?
何これ?
ただの丸?
……?
見えていない裏側に目と口があるのかな?
「……暗闇にうごめくマリモだよ?」
え?
お父さん?
どこかで聞いた話だよ?
それに入るのだけは嫌だよ!
わたしは今のルゥの身体がいいよお!
「ルゥ……ルゥ……? 目を覚ますのだ! 大丈夫か?」
「嫌だよ……マリモだけは……」
「ルゥ? マリモ……?」
「ペルセポネの身体が……どこかに……あるから……」
「……? ペルセポネの……身体?」
「そうよ? ハデス。……あの男からわたしの身体を取り返して」
「え? ペルセポネ……なのか?」
「んん……マリモは嫌……」
「……ルゥ? 苦しいのか? シームルグ! もう一度治癒の……」
「モウ、キズハ、ナオッテル。ユメヲミテル」
「夢? ベリアル、ちょっと吸われろ!」
「じいちゃん!? 嫌だよ! うわあぁ! やめろ!」
……ああ。
この甘い匂いは……
ベリアル?
目を開けるとカスタードクリームみたいな黄色が見える。
あぁ……
ベリアルか。
ここは?
……おばあちゃんの布団?
「わたし……マリモになったの?」
「え? マリモって何だよ?」
ベリアルが呆れた声を出している?
「……あれ?」
手がある。
ルゥの手だ……
良かった。
夢を見ていたんだね。
……怖かった。
「お前……普通のお姫様はこういう時、王子の口づけで目覚めるんじゃないのか? オレを吸ったら目覚めるとか……本当変態だな」
この生意気なベリアルは本物だね。
マリモ……夢で良かった……
こうして、わたしは安心してもう一度眠りについた。
ルゥの夢に出てきたマリモのお話は335話『第二部ルーと愉快な仲間達編画伯とかわいいヒヨコ』に書かれています。
粘土で魔王の身体を創ったお話は153話『第一部家族編十五歳の誕生日(5)』に書かれています。




