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魔王、マザコンで理性を失う。

「この気配は……魔王……?」


 前ウェアウルフ王のお兄ちゃんが明らかに動揺している。

 

 分かるよ。

 その気持ち。

 あの長い廊下を歩いているお父さんの気配が、わたしにも伝わってくるからね。

 お父さん……かなり怒っているね。

 これは、今日が吉田のおじいちゃんの最期の日になっちゃうかも……

 何とかして止めないと。


「ベリアル! 吉田のおじいちゃんと先に第三地区に帰って!」


「モグモグ……あぁ、分かった。モグモグ」


 早速おじいちゃんからもらったマシュマロを食べているね。

 

「ええぇ? じいちゃんまだ帰りたくなぁい!」


 帰りたくなぁい……だぁ!?

 呑気な事を言っている場合じゃないんだよ!


「いいから、帰るの! 時間が経てばお父さんも気持ちが落ち着くはずだから!」


「ええぇ? じいちゃんまだ帰りたくなぁい!」


 もうっ!

 おじいちゃんの為なんだから!


「ベリアル! お願いっ!」


 強制帰宅だよ!


「あぁ、分かった。第三地区に帰ったらクレープ……ん!?」


 吉田のおじいちゃんに抱っこされているヒヨコちゃんの姿のベリアルが奪い取られた!?

 まさか……

 お父さん!?


「ベリアルは誰とどこに行くのかな?」


 お父さんっ!?

 顔が怖いよ!?

 ベリアルが涙目になっているよ!?


「ええと……マシュマロがクレープでプリンだから……」


 ベリアル……

 もう怖過ぎて食べ物の名前しか出てこないね……


「お父さん? どうしたの? あぁ、えっと……わたしを心配して来てくれたの……かな?」


 絶対違うけど。

 とりあえず、かわいそうだからベリアルをさりげなく取り上げよう……

 あぁ……

 怖かったね。

 ヒヨコちゃんの身体が震えているよ。

 もう大丈夫だよ?

 たぶん……ね。


「月海……少し目と耳を塞いでいるんだよ? お父さんは今から吉田のおじちゃんを……大事な話をするからね?」


 お父さん!?

 今、何かとんでもない事を言いかけなかった!?

 何とかして止めないと!


「お父さんっ! あの……うわあぁ! わたしの為に来てくれて嬉しいな! あは……あはは」


 ……動揺が隠しきれない。

 わざとらしくなっちゃうよ。


「月海……目と耳を……」


 さすがに、お父さんに『ちゅきちゅき大ちゅき』はできないからね。

 どうしたら……


「星治! 来たんか! あははは!」


 吉田のおじいちゃん!?

 何を普通に話しかけているの!?

 早く逃げて!

 

「吉田のおじちゃん……」


「何だ? 星治? どうした?」


『どうした? 』じゃないよ!?

 魔王が怒っているんだよ?

 怖くないの!?


「おじちゃん……もう限界だよ……」


 まずい……

 お父さんの古代の闇の力が目に見える程濃くなっているよ。

 ……苦しい。

 ルゥの身体は永遠に近い時を生きられはするけど、怪我とか病気とかでは死んじゃうんだよね。

 これは、かなりまずい……


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