ムッツリとガッツリ
「とりあえず、ハデスから何とかしよう!」
お父さんの方が怖いからね!
「何とか!? どうやって!?」
ヒヨコちゃんの姿のベリアルが涙目になりながら慌てている。
天界でかなり怖い目に遭ってきたんだろうね。
「今は人間がドラゴンに怯えて、わたし達が何をしても見ていないはずだよ?」
「それで!?」
「それで……? うーんと……えーと……」
「無策かよ!」
ベリアルの言う通りだよ……
完全に無策だ。
「とりあえず……ハデス! 聞いて?」
ハデスに話しかける。
「ダメです! 聖女様! 興奮状態で何も聞こえていません」
「聖女様! お逃げください!」
ウェアウルフ王と前ウェアウルフ王のお兄ちゃんが、必死にハデスを押さえ込もうとしている。
「うう……じゃあ……」
どうしよう。
頭を殴って気絶させようか?
「ルー、こういう時はこうするんだ! (コショコショ……)」
吉田のおじいちゃんが耳元で教えてくれる。
「え? そうなの?」
そんな恥ずかしい事をしないとダメなの?
「そうだ! 男はこれに弱い!」
すごく得意気だね……
「……分かった。吉田のおじいちゃん、ベリアルを抱っこしていてね」
「よし! 任せとけ!」
「ハデスから手を離して?」
ウェアウルフ王とお兄ちゃんにお願いする。
「いけません! 危険な状態です!」
「お願い!」
「聖女様……分かりました。何か策があるのですね?」
お兄ちゃん達がハデスを押さえていた手を離す。
「ハデス!」
ダメだ、何も聞こえていないね。
ハデスのほっぺたを両手で挟む。
「ハデス……大ちゅき……ちゅきちゅき大ちゅき」
吉田のおじいちゃんが教えてくれた通り、耳元で囁いた後にハデスに口づけをする。
本当にこんなので大丈夫なのかな?
「……ルゥ?」
「ハデス……正気に戻ったの?」
あんなので!?
嘘でしょ!?
「ハデスちゃんは、ムッツリスケベだからなぁ! あははは」
吉田のおじいちゃん……
怖いものが無いのかな?
「ハデスが、ムッツリならおじいちゃんはガッツリスケベだよ?」
「ガッツリ? ムッツリとは何だ?」
ハデスにその意味を知られたら、また暴れ出すんじゃないかな?
ごまかそう……
「ハデス! お父さんが、吉田のおじいちゃんの息の根を止めに来たの!」
いや、もうおじいちゃんは死んでいるんだよね?
あれ?
じゃあ、お父さんを止めなくてもいいんじゃないかな?
でも……
魂ごと消されたらどうなるの?
「え? 魔王様が……? 何があったのだ?」
「お父さんが第三地区から水晶で見ていたんだよ……吉田のおじいちゃんがおばあちゃんに抱きつきながらチュッチュしていたところを!」
「……抱きつきながらチュッチュ? いつの間にそんな事を」
ハデスが呆れているね。
「お父さんは、おばあちゃんが大好きだから赦せないんだよ! 何とかして止めないと! ドラゴンの皆もおもしろがって見に来ちゃったの」
「魔王様の怒りを止められる者はいない。残念だが……」
え?
それって吉田のおじいちゃんを助けられないっていう事!?
そんなの嫌だよ!
「吉田のおじいちゃん! マシュマロは!?」
「ん? あるぞ?」
「ベリアルに食べさせて、おじいちゃんだけでも第三地区に帰らせてもらって!」
「ええぇ? 嫌なんだけどぉ……じいちゃんまだ帰りたくないよぉ」
「はあ!? 何を言っているの!? 生き延びるんだよ!」
「だって、じいちゃんもう死んでるし、身体も創り物だし、死なないんだなぁ! あははは」
「そうじゃないんだってば! 古代の闇魔術は魂を縛り付ける事ができるんだよ! そんなの嫌だよっ! って何でわたしそんな事を知っているの!?」
ダメだ。
落ち着かないと!
パニックになって、よく分からない事を言っちゃっているよ。




