他人をバカにしてはいけません。なぜなら痛い目に遭うからです。
明らかにわたしを小娘だとバカにしているデッドネットル王の態度に、一緒に付いて来てくれている魔族の皆が殺気立つ。
これはまずいね。
早く何とかしないと……
ここにいる魔族は種族王だからね。
普通の魔族とは強さが違うんだよ……
一瞬で王様達とさようならになっちゃうよ?
リコリス王のお兄様も宰相もいるんだから絶対にダメだよ。
「聖……」
ベリス王が途中まで話すと、わたしがゆっくり首を振る。
大丈夫。
これくらいは、自分で解決しないと。
「デッドネットル王……でしたか?」
「はい。聖女様」
「わたくしにとっては、あなたが誰であろうが関係の無い事です。王であろうが、民であろうが……生きていようが、死んでいようが……」
ゆっくり、落ち着いて話すんだよ!
こういう時は微笑んでいる方が怖いよね。
口元は微笑みながら、瞳は怒っている感じにしよう。
「……聖女……様……?」
「わたくしは人間である事を捨てました。意味がお分かりですか? もう、人間では無いのです。わたくしは……人間には嫌悪感しかありません。何故、今わたくしが浄化の旅をしているのか……お分かりですか?」
「……お教えください。何故ですか?」
「魔素とは、魔族の亡骸から発せられる物です。わたくしは魔族の一員として、哀れな同族の魂を慰める為に浄化をしています」
「……人の為では無い……と?」
「五秒……」
「五秒?」
「はい。五秒あれば、わたくしはこのデッドネットルを海に沈める事ができます」
「何を……聖女……五秒? 五秒では精霊を呼ぶ詠唱さえ無理です! はっ! (小娘が)」
「「何!?」」
魔族の皆が今にも飛びかかろうとしているね。
魔族は耳がいいからね。
近くにいるわたしにしか聞こえないと思っているのかな?
残念な人間だよ。
本当……目の前から消し去りたい……
ダメだ。
落ち着こう。
魔族の中で育ったから、人間の命を軽く見る時がある。
気をつけないとね。
「愚かな人間よ……わたくしは聖女です。聖女とはこの世界に愛されし者。詠唱など必要無いのです。わたくしが願えば、その時点でこの『世界』が願いを叶えようとするのです」
うわあぁ……
すごい嘘をついちゃったよ……
抱っこされているベリアルが『お前、そんな大嘘ついて恥ずかしくないのか? 』っていう目で見ている!?
恥ずかしいに決まっているでしょぉぉお!
「ほぉ……では、試しに何か沈めていただきましょうか。では、この部屋を水で溢れさせてください。五秒以内に……ふっ」
『ふっ』だぁ!?
このわたしを完全に嘘つき扱いしているね。
いいよ!
やってやろうじゃないの!
「(ベリアル、デッドネットル王以外に水の中でも息が吸えるようにできる?)」
「(ん? 一人ずつ空気入りの結界に入れればいいだろう? やってやれ! オレ、あいつ嫌いだ)」
「(うん。わたしも大っ嫌いだよ!)」
ふふふ!
目に物見せてあげるよ!
やれって言ったのは自分だからね?
五秒後に『ごめんなさい』って言っても赦してあげないんだから!




