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魔族じゃないベリアル

 案内してくれた人間が立派な扉をノックする。


 扉の両サイドに四人の男性が立っている。

 一人はアンジェリカちゃんのお兄さんだね。

 中には入らないでここで待っているのか。

 剣を携えているから……とかかな?

 全魔族王会議の時も従者は入れなかったからね。


 中に入ると、四人が立派な椅子に座っていて、その隣に一人ずつ男性が立っている。

 お兄様は王様モードだね。

 隣には鳥吸いのプロの宰相が立っている。


「(ベリアル、他にも人間がいるからお菓子は少しだけ我慢してね?)」


「(分かってるよ)」


 ヒヨコちゃんの姿のベリアルが小声で返事をしてくれる。

 本当は今すぐ宰相のお菓子を食べたいはずなのに我慢して偉いね。

 わたしもベリアルを吸いたいのを我慢するよ!


「聖女様、昨日は我がアルストロメリアを浄化していただきありがとうございました。どうしても感謝の……」


 アルストロメリア王が途中まで話すと、デッドネットル王が笑顔で立ち上がる。


「まぁまぁ、挨拶はそのくらいにして、こちらでお茶でもいかがですか? アルストロメリア王の好物も用意させました」


 デッドネットル王の視線の先を見ると、豪華で見た事の無いお菓子がたくさん並んでいる。

 抱っこしているベリアルが食べたいのを我慢しているのが伝わってくる。


「(ベリアル、我慢だよ? 後でクレープを作ってあげるからね?)」


「(クレープ? それなんだ?)」


「(薄く焼いた生地に生クリームをたっぷり挟んで巻くの。チョコとかフルーツをトッピングすると最高においしいんだよ?)」


「(ゴクリ……分かった。今日作れよ? 約束だぞ?)」


「(任せて。お父様に材料を頼んでおいたから、帰ったら冥界のケルベロスと一緒に作ろう? 好きな物をいっぱいトッピングしようね)」


「(やったぁ! プリンを挟んでもいいのか?)」


「(うん。巻いた後にクレープの上に乗せてもいいかもね)」


「(オレ、いい子にしてる!)」


 よし。

 これでベリアルは安心だね。

 あとは吉田のおじいちゃんが裸踊りをしなければ、無事に帰れるね。


「聖女様? ずいぶん大きなヒヨコですね? お話できるヒヨコ……ですか? 魔族でしょうか」


 デッドネットル王が笑顔で話しかけてくる。


 それにしても、ずっと笑っているけど心からは笑っていないね。

 作り物の偽物の笑顔だ。

 魔族のベリス王が言っていた通り、油断したらいけない相手かもしれないね。


「わたくしのペットです。魔族ではありません」


「ほぉ。話すヒヨコ……魔族では無い……この無知なわたしにお教え願いたい。何の生き物なのでしょう?」


 ……ベリアルが天使だっていう事に薄々勘づいている?

 もしかして、この世界に追放されていた堕天使の誰かと知り合いだったとか?

 今は追放された堕天使はベリアル以外は皆天界に帰ったからね。

 まさか、ベリアルの神力を利用しようとしているのかな?


「……」

 

「おや……これは訊いてはいけませんでしたかな?」


 小娘だと思ってバカにしているね。

 もう魔族じゃないって言っちゃったし、天使だなんて絶対に言ったらダメだ。

 人間にとって天使や神様は特別な存在だからね。

 もし、天使だなんて言ったらベリアルがどんな酷い目に遭うか……

 捕らえられて神力を搾取され続ける……なんて絶対にダメだよ。

 まあ、ベリアルは強いからそんな事にはならないけどね。

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