知りたかったような知りたくなかったような……
「……? おばあ様? アンジェリカちゃんと知り合いなの? それに、アルストロメリア公爵家って? アルストロメリア王国と関係があるの?」
「ええ。ルゥちゃんの言う通りよ? アンジェリカちゃんと呼んでもいいかしら?」
おばあ様が微笑みながらアンジェリカちゃんに話しかける。
「はい。王太后陛下」
「アンジェリカちゃんのおじい様には、わたくしがシャムロックに嫁ぐ時にとてもお世話になったの。その時、アンジェリカちゃんのおじい様はアルストロメリアの王族だったのよ?」
え?
じゃあ、アンジェリカちゃんはアルストロメリア王家の血筋っていう事?
「でも、おじい様はありもしない罪を被せられて国を追放されてね。そうねぇ……愚かな追跡者に襲われそうになった時に、偶然シャムロックの船が通りかかった……のよ?」
広い海で偶然通りかかった……?
たぶん、襲われる事が分かっていて待機していたんだね。
シャムロックの船って、あの大砲だらけの船……?
追跡者も災難だったね。
でも……おばあ様が少し言葉を選んだような気がしたけど……?
「それで、アンジェリカちゃんのおじい様にリコリス王国に連れて行って欲しいと頼まれてね? それから色々あって、リコリス王国で公爵の地位を得て暮らし続けているの」
色々あって……?
何があったのかな?
「はい。その御恩を知らされたのは最近で……あの……」
アンジェリカちゃん?
話しにくい事なのかな?
「あぁ……娘の事ね……あの時の事を……ルゥちゃんのお友達の魚族が教えてくれたの」
友達の魚族?
誰かな?
「娘が王妃の手先に拐われた時に、アンジェリカちゃんのおじい様の配下が一人、船に潜入していたらしくてね。娘を守って……命を落としたらしいの」
「そうだったのですか……」
アンジェリカちゃんも初めて知ったみたいだね。
「じゃあ、あの時ヘリオスの母……お姉様が王妃の手先が船に二人いるって言っていたのは……」
ココちゃんがその時の事を思い出して、おばあ様に尋ねる。
「その内の一人が、公爵が娘を護る為に付けてくれていた密偵だったの。最期まで娘はその事には気づかなかったようね。身重の身体でもシャムロックの名に恥じない戦いぶりだったらしいわ……気を失った娘を船室に隠した後、その密偵は最後の一人の王妃の手先にやられたらしいの。本当に感謝しているわ。その密偵がいなければ、ヘリオスもルゥちゃんも産まれて来なかったはずよ?」
おばあ様が涙ぐみながら感謝している。
「たくさんの人間達に助けられて……わたしは産まれてきたんだね」
「そうね……」
おばあ様が優しく髪を撫でてくれる。
「おばあ様? 王妃の手先の最後の一人はまだ生きているの?」
「あ……もしかしてルゥを拐ったあの男かな?」
ココちゃんは見ていたんだよね。
何か知っているのかな?
「わたしを拐った男? ココちゃんはどうなったか知っているの?」
そういえば、わたしは拐われた後に小舟から落ちたんだっけ。
何があったのかな?
「うん。あの男は、飛んで来た魔族に襲われたんだよ?」
「飛んで来た魔族……」
あの辺りにいる飛べる魔族?
ママだね。
食べたのか……
そういえば、初めてわたしがママに会った時に血の臭いがしたような……
「うん。あんなの初めて見たから……怖かったよ」
現場を見ちゃったんだね。
「……そうなんだね」
ママだって言い出せなくなっちゃった……
「あの魔族……全部状況が分かってみると、正義のヒーローみたいだね! カッコいいよ!」
あぁ……
第三地区で水晶で見ているママが喜んでいる姿が目に浮かぶよ。
もしもあの時、ママが人間を襲って満腹じゃなかったら……
わたしは今ここにいなかったかもしれないね。




