隠された人魚
「聖女様は……魔族になったのか? 人魚の肉を食ったのか?」
魚人族の一人が話し始めたけど……
人魚の肉を食べた?
人魚を食べると魔族になるの?
「食べていないよ? 人魚を見た事もないから……」
「そうか……」
寂しそうな顔だ……
何かあったのかな?
「ハデス? 人魚を食べると魔族になるって本当?」
「……いや。噂は聞いた事があるが……事実ではないだろう」
「そうなんだね……その噂は皆が知っているのかな?」
「あぁ……人間の間で広まった噂らしいな。実際に大量の人魚が捕獲されたようだ」
「そんな……大量に……? じゃあ今、人魚は……?」
「安全な場所で暮らしている……人間の手の届かない場所でな……」
「人間の手の届かない場所?」
わたしを隠してくれていたみたいに、人魚の事も隠していたのかな?
「そうなのか!?」
魚人族がかなり驚いている……?
「ああ。お前はリヴァイアサン王国の領海にいたから知らなかったか。ヴォジャノーイ王国の領海で穏やかに……暮らしている……ぞ」
……?
ハデスの様子がおかしいような……
気のせいかな?
「ヴォジャノーイ王国の領海……そうか……」
魚人族が、かなり深刻な顔をしている?
「……知り合いがいるの?」
家族とか……?
もしかして恋人とか?
「え? あぁ……大昔、離れ離れになった人魚がいて……人間に食われたのかと……」
そうだったんだね……
「ハデス? その人魚の暮らす場所に行けないかな?」
「ルゥの頼みなら構わないが。一応ヴォジャノーイ王の許可を得ないとな」
そうだね。
王様が保護しているなら勝手に行ったらダメだよね。
「オレも一緒に行けるか?」
この魚人族には、本当に大切な人魚がいるんだね。
「ああ、人魚のすみかを荒らさなければいいだろう。(荒らす……そうだな……いや、大丈夫か? )」
よかった。
一緒に行けば見つけられるかも。
名前を聞いて捜すわけにはいかないからね。
魔族は従魔になっちゃうから、同じ種族以外に名前を教えられないんだ。
「今すぐ……は無理か?」
大切な人魚なら早く捜しに行きたいよね……
「明るいうちがいいだろう。人魚は人間に襲われてから警戒心が強くなったからな。夜に行っても隠れて出て来ないかもしれないぞ? いや、違うか? 我々も危険だな……」
……?
ハデス?
危険って?
「そうか……そうだな。人魚は辛い思いをしたからな……」
この魚人族は、人魚が襲われるところを見ていたのかな?
「……あれからずいぶん経つからな。人魚もだいぶ強くなった……」
ハデス?
人魚が強くなったって……?
まさか……
地獄の鍛錬……?
わたしとヴォジャノーイ王にした鍛錬を人魚にもしたの!?
「行ける日にちが決まったらヘリオスに伝えてもらえるか? オレらは毎日ここに来てるから……」
「あぁ……分かった」
ハデスも魚人族と一緒に行くんだよね?
「ハデス、わたしも行けるかな?」
「もちろんだ」
「人魚は人間が嫌いなんだよね? わたしが行っても大丈夫かな? 嫌な思いをさせないかな?」
「……お互い様だからな」
「お互い様? 何が?」
「人魚は魔族だからな。肉を食べて過ごしている」
「……! なるほど」
人魚は人間を……
お互い様か……
……わたしは人魚を食べないけど、人魚はわたしを食べるのかな?
一緒に行っても大丈夫……だよね?
ハデスの地獄の鍛錬で何があったのかは
第一部穏やかな時間編
2022/12/15 249話
『鍛錬の島に到着だ!』に書かれています。




