自分で決めた未来だから~後編~
「……ルゥ、そんな風に考えていたのか……」
辛そうなわたしを見たハデスが心配そうに話しかけてきた。
「だって……前の世界でおばあちゃんが亡くなった時の事が頭から離れないの……」
冷たい雪の中でおばあちゃんが倒れている姿が、ずっと脳裏に焼き付いているんだ。
ひとりぼっちになった静か過ぎる家が怖かった……
絶望……
あれが絶望だったんだ……
「そうだな……確かにその通りだ。だが……別れが辛くて距離を置いたら、もっと後悔する事になる。限られた時を生きるからこそ、悔いのないようにしなければならない」
ハデスが真剣な優しい表情で話を続ける。
「今距離を置けば数十年後、兄が亡くなる時に……きっと苦しくなる。兄が幸せな最期を迎える為には、妹として兄に甘える事が必要だ。分かるか? 別れが悲しくなるからと避けていては……もっとこうしていれば、ああしていればと苦しむ事になるのだ。兄にとっては短い人生だ。ルゥに距離を置かれれば寂しい日々を過ごす事になる」
「寂しい日々……」
ハデスの言う通りだ……
わたしが悲しくなりたくないからって、お兄様に寂しい思いをさせるのはダメだよね。
「先の事は考えず、今は家族を大切にしよう。ルゥ……できそうか?」
「うん……今を大切に過ごすんだね……ありがとうハデス。間違った道に進むところだったよ……」
人間とは生きる長さが違う……か。
魔族の中で生きていくにはいい事なんだ。
まだ、わたしが永遠に近い命を与えられる前は、魔族の家族より先に死ぬのが怖かった。
わたしだけがいない世界が続いていくのが寂しくて心が押し潰されそうだった……
でも、人間のお兄様とおばあ様に出会って、人間が大切な存在になると……
今度は見送る立場になって……
皆とのお別れを想像すると、耐えられないくらい心が痛くなった。
わたしは、わがままだ。
魔族になりたがったくせに、人間の家族を喪いたくないなんて……
魔族として生きるって決めたのに……
これからは、永遠に近い時の中で大切な人間を何人も見送り続けるんだろうな。
おばあ様もお兄様も見送る事になるんだ……
その時が来たら、わたしは耐えられるのかな?
ハーピー族長だった頃のおあいちゃんみたいに、長い時を生きているのが嫌になるのかな?
……自分で決めた道なんだ。
わたし自身が『ハデスと同じ時を生きたい』って、ばあばにお願いしたんだ。
心が揺れている姿をばあばに見られなくてよかった。
ばあばに迷惑をかけちゃうところだったよ。
ハデスの言う通り、人間の家族と距離を置くのはダメだよね。
最期の時に後悔しないように……
いずれ来るその時の為に、人間の家族との時間を大切にしていこう。
ルゥが話していたおばあちゃんの亡くなった時のお話は
2002/10/3 102話
『第一部天族編おばあちゃんの最後の日』に書かれています。




