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ルゥと肖像画

「下描きだけ済ませましたので。ああ……完成したらどこに飾ろうかな……」


 ヴォジャノーイ王が、わたしの肖像画の下描きを終えたらしい。

 まだ三十分くらいしか経っていないのに、すごいよ。

 

「見てもいい?」


「はい! もちろんです!」


「うわあぁ……」


 すごい!

 まだ色は無いけどわたしにそっくりだ!

 いや……

 かなり綺麗に描いてくれているね……


「……もしかして、魔王城にあるお父さんの肖像画を描いたのってヴォジャノーイ王?」


「え? はい。わたしが描きました」


 あのそっくりな肖像画を描いたなんて……

 すごいな。

 わたしのヒヨコちゃんの絵とは大違いだ。


「わたし……こんなに綺麗じゃないよ?」


「いえ! 伯母上の美しさをまだ表現しきれていません! 色を塗るのが楽しみです!」


「色塗りは、わたしがいなくても大丈夫なの?」


「はい! お美しい伯母上の姿を瞳に焼き付けましたので!」


「……ヴォジャノーイ王には、わたしがこんな風に見えているの?」


「……え? あの……気に入りませんでしたか? 描き直します!」


「ああ! 違うの! その反対だよ! すごく綺麗に描いてもらったから……なんだか恥ずかしくて……わたしとは別人みたいに見えるから……」


「伯母上……わたしは、伯母上ほど美しい人間を見た事がありません。……伯母上が伯父上とつがいになると聞いた時……正直驚きました。弱味でも握られたのではないかと。ですが、わたしは知っています。伯父上は怖く思われがちですが本当は誰よりも優しいのです。だから大切なお二人が今こうして幸せに暮らしている事が何よりも嬉しいのです」


「ヴォジャノーイ王……うん。わたしも、ハデスが優しい事は知っているよ? だからハデスがわたしを大切にしてくれているみたいに、わたしもハデスを大切にしたいんだ」


「伯母上……残りの二か国の浄化には、わたしは付いて行く事ができません。どうか無事にお戻りください。伯母上はわたしにとって……とても大切な……妹のような存在なのです」


「……うん。ありがとう。わたしも、ヴォジャノーイ王を優しいお兄ちゃんみたいに思っているよ」


 ヴォジャノーイ王と微笑み合う。


 穏やかな時間だな……

 小さい時から毎日遊びに来てくれているヴォジャノーイ族のおじちゃん達もいるし、大好きなおばあちゃん達もいる。

 同じ部屋で、人間と魔族と天使が笑いながらお菓子を食べているなんて不思議だね。

 誰かから見れば食糧で、誰かから見れば脅威で、誰かから見れば嫌いな相手で……

 でも、今この場所にいる全員がわたしにとってすごく大切な存在なんだ。


 聖女として魔素を祓う事が今のわたしの役割……か。

 魔族の皆も浄化を応援してくれているし、残りの二か国も気を抜かずに頑張ろう。


「……吉田のおじいちゃんは……明日は付いて来ないよね?」


「ん? オレにその気が無くても、また間違えて付いて行っちまうかもしれねぇなぁ……あははは!」


 ……これは、明日も波乱の予感。


 今日は聖女らしくきちんとできていたかな?

 夜、リコリス王国に行ってお兄様に訊いてみよう。

 いつもの優しいシスコンのお兄様も大好きだけど……

 王様モードのお兄様は、すごく素敵だったな。

 

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