画伯とかわいいヒヨコ
「それにしても、この城はずいぶん金ピカだなぁ。カエル人間の兄ちゃんは派手好きなんか?」
吉田のおじいちゃんが目をショボショボさせながら尋ねている。
「そういうわけではありませんが……わたしは伯父上の後ろにずっと隠れて暮らしてきましたので、王としての威厳がなくて。それで城だけでも立派にしようと思い、このようになりました……ですが、正直眩しくて目がチカチカするのです」
ヴォジャノーイ王も目が痛いのか……
毎日過ごしているから大変だね。
「城は黄金でできていますが、生活している家は質素ですよ? その方が落ち着きますから」
質素?
どれくらいの感じなんだろう?
金ピカから見ての質素なら全然質素じゃないんじゃないかな?
「そうなのです。王は質素倹約……我ら戦士の方が立派な家に住んでいるのです。前王妃様、こちらのお席にどうぞ。王が肖像画を描くそうです」
うぅ……
もう少しベリアルを吸いたかったのに……
ん?
王が描く?
「ヴォジャノーイ王が? 肖像画を描くの?」
「はい。伯母上のお美しい姿を描けるとは……この上ない幸せです」
「絵が描けるの!? すごいね! わたしは絵心が壊滅的だから……今度描き方を教えて欲しいな」
「伯母上! はい! 喜んで!」
ヴォジャノーイ王……
すごい笑顔だ……
かわいいな。
笑った顔がヴォジャノーイ族だった頃のハデスに似ているね。
懐かしいな……
「ルーに絵を教えるんか? カエル人間の兄ちゃんは苦労するぞ? あははは!」
吉田のおじいちゃん……
おじいちゃんはわたしの絵の実力を知っているんだよね……
「苦労……? ですか? 伯母上が相手ならば苦労などとは思いませんが……」
「ルーの絵はなぁ……とにかく……あれなんだ……」
「……あれ? ですか?」
「何て言うかなぁ……かわいい犬を描くとするだろ? そうするとなぜか見た事もないような生き物が描き上がるんだ」
「見た事もないような生き物? なんと素晴らしい! さすがは伯母上!」
いや……
褒めるところじゃないよ?
本当にとんでもないものが描き上がるんだから……
あれは前世の図工の時間……先生が……
「あ……あら? えっと……闇を感じる……いや、あの……個性を感じる……? これは……暗闇にうごめくマリモかな?」
「……ネコです」
っていう事があったくらいだからね……
「ルゥは美しいだけでなく芸術にも長けているとは……さすがは我が妻だ」
ハデスが嬉しそうにわたしを褒めている。
あぁ……
やめて……
ハードルが上がっていく。
「ぷはっ! ルー……ハデスちゃんは描くのが難しそうだからヒヨコを描いてやれ」
「……!? 嫌だよ! 上手くなったらにする!」
笑い者にする気だ!
絶対に嫌だよ!
「まぁまぁ、いいじゃねぇか。もしかしたらヒヨコが、ルー大ちゅきって言ってくれるかもしれねぇぞ?」
「えっ!? 大ちゅき!?」
言ってくれたら……
想像しただけでニヤニヤしちゃうよ……
ヒヨコちゃんか……
ネコよりは簡単だよね?
よし、紙とペンも準備してもらったし。
ベリアルのフワフワの羽毛とつぶらな瞳、かわいいクチバシ……
あぁ……
かわいい。
できた!
って……
あれ?
思ったのと違う?
「お? 画伯が描き終わったみてぇだなぁ……ぷはっ!」
吉田のおじいちゃんが吹き出した!?
しかも、画伯!?
絶対に面白がっているよね!?
「どれ、わたしにもルゥの芸術的な絵を見せ……プッ!」
ハデス!?
笑った!?
今、わたしの絵を見て笑ったの!?
「……ルゥ、お前勝手にオレを描いたのか? 一体何を描いたん……」
わたしの描いた絵を見たベリアルの動きが止まった?
え?
確かに『暗闇にうごめく何か』みたいには見えるけど……
よく見ると味があってかわいく見えるような気もしてくるよ?
うん……
そのはず……
「……ベリアル? あの……大ちゅきって言ってくれるかな?」
「お前……オレがこう見えてるのか? これ……化け物だろおぉぉ! 怖いよおぉぉ! うわあぁぁん!」
「化け……!? 違うもん! かわいいヒヨコちゃんだもんっ! え? 泣くほど怖いの?」
こうして……
またベリアルに距離を置かれてしまった事は言うまでもない……




