隠しても地獄、出しても地獄
「ドラゴン王だ! 酒を隠せ!」
「ドラゴン王だぞ! 大変だ! 酒を全部隠すんだ!」
「早くしろ! また全部飲まれるぞ!」
「城が破壊されるぅぅ!」
ヴォジャノーイ王国の皆……
必死だね。
ヴォジャノーイ王国に着くとドラゴン王のばあばからお酒を隠そうと慌てる声が聞こえてくる。
わたしにも聞こえるんだからドラゴンのばあばには、もっと鮮明に聞こえているんだろうな……
ブラックドラゴンのおじいちゃんが苦笑しているね。
ばあばは、いつもたくさんお酒を飲んでいるのかな?
「あらあら……そんな事したら暴れちゃうかも……」
ばあば!?
笑顔だけど怖いよ!?
さっきまでの優しい声と違うよ!?
「……!? なんという事だ……酒を出しても隠しても暴れるのか……もうヴォジャノーイ王国は終わりだ……」
「王が留守の間に国を失う事になるとは……」
「無念……」
すごく強いヴォジャノーイ族の戦士達が膝から崩れ落ちている!?
「おじちゃん達……大丈夫?」
まさか泣いているの?
前に、ばあばが暴れた時によほど怖い思いをしたんだね……
「……!? 前王妃様!? あぁ……助かった」
「やったぁぁ! 助かったぞおぉぉ!」
「王様もお戻りだ! よかった!」
皆……
心の底から嬉しそうだね……
ドラゴン王のばあばに気を取られて、周りが見えていなかったんだ。
ばあばは暴れると怖いのか。
普段は優しいから想像もできないよ。
「前王妃様、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」
「前王妃様、浄化の旅はいかがでしたか?」
「ああ! 前王様! おかえりなさいませ」
「前王様だ!」
ハデスは天使の姿に戻っても、ヴォジャノーイ族の皆から大切に想われているんだね。
天使なのに魔族の振りをしていたのかって責められなくてよかったよ。
天使と魔族は仲が悪いらしいから……
幸せの島では皆仲良く暮らしているんだけどね。
種族の違いがあれば仕方ない事だ。
皆で仲良くできたら嬉しいけど、食べ物の違いとか考え方の違いとかは変える事ができないからね。
「ドラゴン王……暴れないでください。あぁ……どうしたら……」
ヴォジャノーイ王が困っているみたいだね……
「ばあば、とりあえず人間の姿になってもらえるかな?」
暴れても被害が少なくなりそうだし。
「そうね。ブラックドラゴンも人間の姿になって、中でお酒を飲みましょ? ふふっ。楽しみだわ」
「ホワイトドラゴン……ルゥ達を送らないといけないから、今日はやめておこう?」
人間の姿になったおじいちゃんが、ばあばを止めようとしている。
そんなに飲ませたくないのかな?
「ルゥを送る……? そうだったわね。大切なルゥを乗せるならお酒はダメね。残念だわ」
「いやったあぁぁぁ!」
ヴォジャノーイ族の皆が歓喜の声をあげている!?
そんなに嫌だったの!?
「じゃ、また明日来るわね?」
ばあばは楽しそうに笑っているけど……
「ええぇぇ!?」
ヴォジャノーイ族の皆は絶望の表情になっている。
かわいそうだな……
なんとかできないかな?
そうだ!
「あのね? もうすぐお父さんの誕生日なの。宴をするんだけど……よかったらその時に魔王の島にお酒を持って来てもらえないかな? お父さんがいれば、ばあばが暴れたとしても止めてもらえるだろうし。どうかな?」
「前王妃様……ばんざーい!」
万歳!?
ヴォジャノーイ族の皆……
ばあばがヴォジャノーイ王国でお酒を飲まないのがそんなに嬉しいの!?
泣いて喜んでいるよ!?
もしかして、わたしが思っている以上に暴れるのかも……
魔王城……壊れないかな?
心配になってきちゃった……




