新しい家族~後編~
「……ルゥも気に入ったようだしな。悪さをしないなら、いればいい」
わたしの為に?
じいじは、いつでもわたしを大切にしてくれる。
まただ……
ドキドキして苦しい。
疲れているんだ。
ご飯を食べて早く寝よう。
「姫様。今日はイルカがとてもかわいかったですね」
オリジナルが付いて来ていたマンドラゴラだったんだね。
「うん! すごくかわいかったぁ。キューキュー鳴いていたよね」
イルカって本当にキューキュー鳴くんだね。
でも……
イルカもかわいかったけどマンドラゴラ達もかわいいよ。
「鳴くといえば、わたし以外のマンドラゴラは悲鳴をあげますが話はできません。わたしは少し変わっている体質でして」
そうなんだね。
クローンの方は話せないのか。
魅了できない事と関係あるのかな?
それとも、オリジナルが一度魅了されているから魅了できなかったとか?
「皆の事は何て呼べばいいかな? 従魔にならないように呼びたいの」
本当の名前で呼ぶと従魔になっちゃうから種族名で呼ぶしかないけど四匹……
いや、四人いるから……
でも、マンドラゴラは魔族なのかな?
「では、パパママのように呼んでみてはいかがでしょうか?」
パパママ?
うーん……
何て呼ぼう?
よく見ると大きさも色も微妙に違う。
クローンだから全く同じっていうわけじゃないのか……
でもそれってクローンなの?
もしかしてクローンっていうより子供達みたいな感じなのかな?
「うーん……一番小さい子が赤ちゃん。二番目に小さい子がお姉ちゃん。一番大きい子がお兄ちゃんはどうかな?」
簡単過ぎるかな?
「素敵です! ありがとうございます。では、わたしは何とお呼びいただけるのでしょうか?」
瞳をキラキラさせながら尋ねてきたね。
それに『素敵』?
単純だって笑われてもおかしくないのに……
マンドラゴラは優しいんだね。
オリジナルかぁ。
うーん……
クローン達の親っぽいから『パパ』?
パパと紛らわしくなっちゃうか。
うーん……
難しい。
子だくさんだからビックダ……
「ダディ……とか?」
「ダディ?」
オリジナルが聞き返してきたね。
「子供がお父さんを呼ぶ時に使うんだよ? 嫌かな?」
違う呼び方がいいかな?
他には何か……
「素敵です! ダディ! わたしもまだまだ勉強不足ですね。姫様! これからはお暇な時に色々教えていただけませんか?」
ダディは勉強家なんだね。
いろんな事に興味があるみたい。
外の世界は珍しい事ばかりだからね。
わたしも幸せの島から出るとワクワクするから良く分かるよ。
「わたしで良ければ。これからよろしくね。ダディ、子供達」
これから、もっと賑やかに楽しく過ごせそう。
楽しみだな。
ダディ達は空いている一部屋を四人で使う事になった。
こっそり覗いてみたら、ベットに四人でぴったりくっついて寝ていてかわいかったなぁ。
星が流れるのをやめた。
空はその場にとどまる星でキラキラ輝いている。
「姫様」
いつの間にか魚族長が波打ち際に来ている。
「今日はありがとう。魚族長のおかげで元気が出たよ」
魚族長と見たイルカ……
かわいかったなぁ。
また見たいよ。
「姫様、今朝は言えなかったのですが……姫様の血の事は誰にも話さないでください。悪い者達に身体中の血を抜かれてしまうかもしれません」
……!
それでじいじが秘密だって言ったんだね。
怖過ぎるよ。
身体の血を全部抜かれる?
今まで会った魔族はわたしに好意的だったけど、会った事がない魔族は分からない。
死の島での戦いの時、あの場にいた全ての魔族がわたしの血で死者が蘇った事を知っている。
皆はそれを隠そうとしてくれているんだ……
また守られていたんだね。
いつも守られてばかりだ。
わたしは皆に何かを返せているのかな?
わたしはいつも無力だ……
「魚族長……わたしも人間じゃなくて魔族に生まれたかったの……」
寂しそうに話すわたしに魚族長が辛そうな顔になる。
「わたしは陸には上がれません。ですが……辛い時はいつでもわたしを呼んでください。どんなに遠い波打ち際でも、必ず会いに行きますから」
魚族長……
ありがとう。
わたしを大切に想う気持ちが伝わってくるよ。
「ありがとう……」
夜の砂浜は静かだ。
大きくて落ちそうだった月がいつの間にか小さくなっている。
幸せの島に波の音だけが響いている。
波打ち際で、魚族長の優しい手がわたしの髪を撫でる。
ひんやりして気持ちいい……
月明かりがキラキラと砂浜を輝かせている。




