王様が裸になってハックショイ記念日
「聖女様……え? まさか……伝説の……天使様とお犬様!?」
見るからに高貴そうな五十代くらいのふくよかな男性が馬車から降りてくる。
「お犬様とは?」
お兄様が違う馬車から降りてきた。
シスコンモードの時とは、だいぶ違うね……
凛々しくてカッコいい。
わたしも聖女らしくしないと。
「キャー! リコリス王! 素敵いぃぃ!」
……!?
何?
数十人の女性が『リコリス王こっち向いて』とか『リコリス王ラブ』とか書いてある、うちわ的な物を持って振っている!?
こっちの世界にもあるの!?
推し活が!?
わたしもモフモフラブってしたいよ!
ベリアルラブ……
ハーピーちゃんラブ……
堪らないね!
興奮して鼻血が出そうだよ!
「リコリス王……お犬様と天使様は遥か昔、我がアルストロメリア王国の危機を……? あ……天使様? 寒くはありませんか? 今は冬ですが?」
そうだよね。
今は冬だよね。
王様だって心配しているよ。
だからおじいちゃん……
早く服を着ようか。
いや……
まだズボンを履いているだけ今日はマシかも。
「ん? オレ? オレは普通の人間じゃねぇから寒くねぇよ?」
第三地区の皆は創り物の身体だから寒くないのかな?
「さすがは我が国の救世主様! 寒さをも超越するとは……」
王様……
誤解だよ?
その人はただの変態……
「救世主様を見習い、わたしも今から上半身裸に……ハックショイ!」
王様……
やめた方がいいよ……
真冬だからね。
この王様……
天然なのかな?
ガッタガタ震えているよ。
「ん? くしゃみして、風邪でもひいたら大変だ。服を着ろ?」
吉田のおじいちゃん……
おじいちゃんも服を着て?
「なんという慈悲深きお言葉……民よ聞いたか? 今日のこの日を祝日に定めよう!」
いや、何の記念日!?
「なるほど、王様が裸になってハックショイ記念日か? あははは!」
吉田のおじいちゃん!?
救世主だって勘違いされているんだから、本当にその変な祝日になっちゃうよ!?
「それは素晴らしい! さすがは救世主様! 民よ! 今日は『王様が裸になってハックショイ記念日』だ! 宴だ宴だ! ははは!」
……もう誰にも止められないね。
吉田のおじいちゃんが裸踊りを始める前に帰ろう。
宴に参加でもしたら確実に裸踊りが始まるよ……
「ぜひ、救世主様も聖女様も宴に参加……え?」
王様?
今度は何に驚いているの?
「あれは……」
……あれは?
何?
王様の視線の先に真っ白いドラゴンが見える。
間違いない!
ばあばだ!
後ろからブラックドラゴンのおじいちゃんも飛んできている。
少し先にある広場に行ったみたいだ。
よかった……
吉田のおじいちゃんが宴に参加するって言い出す前に連れて帰ってもらおう。
「(ばあば、吉田のおじいちゃんが裸踊りを始めそうで心配なの。今すぐわたし達を第三地区まで運んでくれるかな?)」
かなり離れているし小声だけど、ドラゴンは耳がいいから聞こえているよね?
「グオオォォォ!」
ドラゴンの低い声で空気が振動するのを感じる。
ばあば……
ドラゴンっぽいね……
普段は人間の言葉で話しているけど。
演出かな?




