勘違い
「さて、問題はここからだな」
ハデスが抱っこしてくれていたわたしを、ゆっくり立たせながら話し始める。
「そうだな。魔族が人間の街を歩き回るわけにもいかないからな」
イフリート王の言う通りだね。
フードを被るにしても、ケルベロス王は頭が三つある犬……っていう設定には無理があるよね。
どこから見ても魔族だし……
でも、無料で世界中に配った絵本……
読んだ人間は聖女が魔族に育てられた事を知っているんだよね?
それに悪い事をしに来たわけじゃないし……
うーん……
「ハデス? このまま姿を隠さないで王様に会いに行ったらダメかな?」
「ルゥ……魔族と人間は……分かるだろう?」
「でも……わたしにとっては大切な家族で……大切な存在で……だから隠したくないんだよ。今から悪い事をしようとしているわけでもないのに……」
「魔族が現れたら騒ぎになるのは分かりきっている……」
人間と魔族は仲良くできないのかな?
「え? あれって……」
「まさか伝説の?」
「本物が見られるなんて……」
人間がわたし達の方を見て騒ぎ始めた?
「人間がルゥに気づいたか……」
……?
ハデスはそう言うけど、視線がケルベロス王と背中に乗っている吉田のおじいちゃんに向かっているような……?
それに、絵本を見たからって今のわたしの容姿は分からないはずだよね?
「伝説のお犬様だ」
「絶対にそうだ」
「なんて凛々しいんだ。って事は背中に乗っているのは天使様か?」
伝説のお犬様?
吉田のおじいちゃんが天使?
どういう事?
「月海、あれを見ろ! あの旗!」
おばあちゃんが町に繋がる道にある旗を指差した?
「……え? あれって……? ケルベロス王?」
頭が三つある犬みたいな生き物の背中に、翼の生えた天使がまたがっている姿が描かれている?
「……そういえば遥か昔、冥界のケルベロスが人間の世界に行った事があったが……」
ハデスが何かを考えながら話している?
「じゃあ、背中にいるのはハデスなの?」
「いや、違う……ゼウスの息子だ……」
「……? え? お父様の……?」
「わたしのお兄ちゃんって事?」
「……弟かもしれないし兄かもしれない」
「え? どういう事?」
「あのバカは……人間だろうと天族だろうと見境なしに手をつけていたからな……」
「……? この世界の赤ちゃんは誰が連れて来るの……?」
前の世界ではコウノトリが連れて来てくれたけど……?
「……え? あ……いや、その……」
ハデスが慌て始めた?
「え? まさか、ハデスちゃんはまだ……? ぷはっ! 奥手なんだなぁ。あははは!」
吉田のおじいちゃん?
何がまだなの?
「おお! 天使様が笑っているぞ!」
「これは、良い事が起こりそうだ!」
人間が吉田のおじいちゃんの一挙手一投足に釘付けになっている!?
これは……
絶対に裸踊りだけは阻止しないと!
秒で捕まっちゃうよ!?




