冥界のケルベロス
舞い上がった砂の中から誰かがゆっくり歩いて来るのが見える。
頭が三つ……
間違いないね。
冥界のケルベロス。
冥界で寝る暇もないくらい必死で働いている間、冥王のハデスが幸せの島でわたしと仲良く楽しく暮らしていたって知ったんだよね?
……わたしを消しに来たのかな?
ペルセポネの時の記憶も戻ってこないし、知り合いじゃなかったのかな?
ペルセポネは冥界でハデスと暮らしていたはずだけど……?
「冥王様……ずいぶんと楽しく暮らしているようですね……」
真ん中のケルベロス……
顔が怖いよ?
「まぁまぁ。落ちつけって、冥王様がご無事で何よりだ」
おぉ……
左のケルベロスは温厚なのかな?
「冥王様が生きていた冥王様がペルセポネ様と楽しく暮らしていたオレが必死に働いている間にオレの今までの頑張りは何だったんだいつか帰ってくると信じていたのに……」
右のケルベロス……
本当に大変だったんだね……
焦点が定まっていないよ?
苦情が呪文みたいになっている……
疲れきっているんだ。
「ケルベロス……久しいな……」
「冥王様……オレの事などもうお忘れかと思っていました」
怒っているっていうよりは、寂しい感じ?
ケルベロス……
もしかして、ハデスがいなくなって心配で辛かったのかな?
「……それで、あのお方はどちらに?」
あのお方?
誰の事?
「ペルセポネの事か? 知ってどうする?」
ハデスが険しい顔になる。
もしかして、わたしを攻撃するつもりなの?
でも……
ハデスはわたしのせいでヴォジャノーイ族になったんだから……
それで、冥界にいられなくなったんだよ。
わたしが攻撃されるのが嫌だからって逃げるわけにはいかないよ。
「わたしだよ? わたしがペルセポネだよ」
ちゃんと説明して分かってもらおう。
「……? お前は人間だ」
そうだよね。
今のわたしは天使じゃないから……
「本当にあのお方なら……あれをするはず」
あれ?
何かな?
ペルセポネの記憶が戻ってこないから分からないよ……
「……ルゥ。ケルベロスは考えていたよりも冷静なようだ。ルゥの思った通りにしてみるといい」
ハデス?
わたしが思った通りにしていいの?
わたしの思った通り……
え?
いいの?
「ほ……本当にいいの?」
まずい……
ヨダレが出そうだよ……
「本当にあのお方なら……試させてください。これで本当にあのお方かどうかを確認します」
確認?
何の?
でも……
思い通りにしていいんだよね?
「後になって……やめろって言っても止まらないからね?」
ふふふ。
ハデスにもケルベロスにもいいって言われたからね?
じゃあ……
久々にハデスとハーピーちゃん以外を吸って吸って吸いまくるよ!?
いただきますっ!
「おい! ルゥ!? 何をするつもりだ? そのケルベロスは今まで見た奴より桁違いに強いぞ? やり合うのは危険だ!」
いつの間にか戻って来ていたイフリート王子が叫んだ。
「残念だね……王子……こうなったわたしはもう誰にも止められないんだよ……」
あぁ……
ワクワクが止まらない。
三つある頭の、どの子からいこうか……
ゆっくりケルベロスの前に歩く。
「やめろお!」
王子……
何か誤解をしているみたいだね……
これから始まるのは、そんな血が出るような事じゃないよ?
いや……
止まったばかりの鼻血は出るかもしれないけど……
さぁ!
久々のモフモフパラダイスが始まるよっ!




