お菓子作り(1)
「ベリアルはね、ハデスの側付きだったの。それは強くてね天界では恐れられていたのよ? 今みたいな、かわいいスイーツ好きヒヨコとは全然違ったわね……」
お母様が話し始める。
「名誉を回復して天界に帰って来るかと思っていたけれど、まさかヒヨコのまま幸せの島に残るだなんて驚いたわ。でも、今のこの姿を見ると……これが本来のベリアルの姿なのかもしれないわね。天界にいた頃は無理をしていたのかも……」
「無理? 自分を偽っていたっていう事?」
「そうね……あの頃は天界も不安定な時期だったから、一瞬の油断が命取りになったのよ? 一部の大天使が悪さばかりしていたから……」
「今はもう平気なの? お母様は安心して暮らせているの?」
「ええ。もちろんよ? 心配してくれてありがとう」
お母様が優しく微笑んでいる。
綺麗だなぁ……
真っ白い天使の翼に、銀に近い白い髪……
見とれちゃう。
ベリアルは天界で、スイーツ大好きな時々赤ちゃん言葉になるかわいい性格を隠して暮らしていたのか……
辛かっただろうね。
表では怖い顔をしながら裏では、むさぼるように隠れてお菓子を食べていたのかも……
「わたし、ベリアルに意地悪しちゃった……恥ずかしい事を言わないとお菓子をあげないなんて、最低だ……おいしいフロランタンを作って謝りたいよ!」
「そうね……お母様も手伝うわ?」
お母様とお菓子作りか。
楽しそうだよ。
「え? デメテルはお菓子を作るの? わたしも作りたい!」
ヘラが嬉しそうに言ってくれる。
「ヘラも一緒に作ってくれるの? 嬉しいな!」
もっと楽しくなりそうだよ!
「ヘスティアも一緒に作ろうよ!」
ヘラがヘスティアに話しかけている。
「……わたしはいいわ。(まだ死にたくないし)」
え?
ヘスティア?
今、小声で何か言わなかった?
いつもニコニコのヘスティアの顔がひきつっている。
すごく嫌な予感……
「そう? じゃあ、始めましょ? ヘラとデメテルとルゥのお菓子作りをねっ!」
ヘラが綺麗過ぎるくらい綺麗な笑顔で広場にあるキッチンに向かう。
「ルゥ……ヘラはダメよ。作るより先に壊すわよ……?」
お母様がヘラに聞こえないように話しかけてきた?
「え? 作るより先に壊す? 何が?」
さっきのヘスティアといい、何かあったに違いないよ。
「ヘラは力が強くてね……ヘラの家にある物は全て強度の高い物なの。だから、自分の怪力に気づいていないのよ……ここにある普通の物は持っただけで壊れるはずよ?」
「え? それじゃあ……今から始まるのは楽しいお菓子作りじゃなくて、ヘラの物壊しっていう事……?」
「……もうすでに始まっているわ。あれを見て?」
お母様の指差した方を見る。
「あらあら? この包丁はもろいのね? 触っただけで壊れたわ? あら? お鍋が鉄クズになったわ? どうしたのかしら?」
……!?
嘘……
怪力なのは知っていたけど、まさかここまでとは。
「あぁ……台所が壊れていく……」
「天ちゃん止めてくれ!」
いつもご機嫌な第三地区の皆が怯えているよ。
「皆っ! 我慢して! ヘラちゃんは誰にも止められないんだ!」
お父様……
神様だよね?
「皆さんすみません。ヘラが破壊しつくしたら、わたしが全て元通りに直しますので……」
お母様は慣れているね。
いつも後始末をしているんだ……
このお菓子作り……
無事に終わる気がしないよ。




