大きな月の下で
星が流れる夜。
静かな幸せの島。
満月が落ちてきそうなくらい大きく見える。
月明かりに照らされて新築の家の影が伸びる。
波の音だけが島に響く。
家を建てに来てくれた魔族の皆は頭を撫でられて嬉しそうにそれぞれの国に帰った。
静かだなぁ。
昼間は賑やかだったからすごく静かに感じる。
新しい三つの家とガゼボ。
パパの花壇と畑はウェアウルフ族が作り直してくれた。
今までと同じダリアの花もたくさん植えてくれたから、あんな事があったなんて信じられないくらい素敵な景色が広がっている。
あ……
じいじがヴォジャノーイ族のおじちゃん達とイフリート王国から帰って来たね。
大量の家具と共に……
「じいじ、おかえりなさい」
じいじに抱きつくと、髪を撫でてくれる。
じいじの話によると、王子の愚行のお詫びの品をイフリート王がくれたらしいんだけど……
まさか奪って来ていないよね……
おじちゃん達が、かなりやつれた顔をしている……
これ以上は聞かないでおこう。
おじちゃん達は、かなり疲れているみたいだ。
家具を魔力で引っ張って来たんだよね。
家も建てていたし。
そうだ!
「おじちゃん達! 肩たたきしてあげる!」
わたしの言葉におじちゃん達が首を傾げた?
あぁ、そうか。
魔族は肩たたきを知らないのかも。
「姫様……? それはまさか……分かりました! 姫様になら何をされても耐えてみせます!」
え?
何が?
まあ、肩をたたいてみれば分かってもらえるよね。
おじちゃんが目をギュッと閉じたね。
そんなに怖がらなくてもいいのに。
トントントントン
前世では、肩たたきが上手いっておばあちゃんに褒められたんだよね。
おじちゃんはどうかな?
肩たたきは嫌いかな?
「姫様? これは、罰ではないのですか? たたくとは、殴る事ではないのですか?」
え?
罰?
「これは、肩たたきって言って大切な人の疲れを取る為にやるの。ありがとうって感謝しながらやるんだよ?」
……?
あれ?
嫌な予感……
おじちゃん達の瞳がキラキラ輝き始めたよ。
「姫様! わたしも疲れました!」
「姫様あぁ! オレも肩があぁ!」
あぁ……
おじちゃん達が騒ぎ出したよ。
順番にやってあげよう。
「お前達。家具を家に運ばないのか?」
静かに見ていたじいじが、低い声でおじちゃん達に話しかけたね。
「「「はい! ただちに!」」」
おじちゃん達が慌てて行っちゃった。
「ルゥ。……じいじには、やってくれないのか?」
「え?」
「肩のやつだ」
……!
やって欲しかったのか……
トントントントン
力加減が難しいな。
群馬では、おばあちゃんにしかした事がないから。
あ、家に遊びに来ていた近所のおじいちゃん達にもしたかな。
でも、嬉しいな。
月海の時は、おばあちゃんと二人暮らしだったから。
今は毎日賑やかだし家族がたくさんいるから嬉しいよ。
じいじに後ろから抱きつく。
「じいじ、大好きだよ」
じいじの心臓の音が心地いい。
「じいじも大好きだ……」
……?
あれ?
どうしたんだろう?
ドキドキが止まらない。
顔が熱い。
「ルゥ? どうした? 疲れたか?」
じいじに見つめられて、もっとドキドキする。
わたし……
たぶん……
ものすごく疲れたんだ!
ママが最近疲れてドキドキするって言っていたし。
今日はパパのご飯を食べて、ママに抱っこしてもらいながら早く寝よう。
「ルゥ! ご飯できたよぉ!」
パパが呼んでいるね。
「じいじ。ご飯食べてくるね」
ドキドキして真っ赤になっているわたしの顔を、じいじが心配そうに見ている。
「行っておいで」
じいじが優しく髪を撫でてくれる。
「そうだ。顔が赤くなっているからオークに薬をもらいなさい」
今日は日焼け止めを塗っていなかったんだ。
だから顔が熱かったのか。
「うん。お風呂から出たら薬を塗るね」
ニコニコの笑顔で返事をすると走って玄関に向かう。
あ……
じいじにお礼を言っていなかった。
「じいじ。今日はありがとう。……あと、毎日ありがとう!」
月に照らされてわたしの髪が銀色に輝く。
幸せいっぱいの笑顔なのが自分でも分かる。
月に照らされたじいじの顔が少し赤くなったように見える……?
じいじもずっと外にいたから日焼けしたのかな?
じいじにも後で薬を塗ってあげよう。
ありがとうって髪を撫でてもらえたら嬉しいな。




