ティータイム(9)
「なるほど、じゃあ本当にそのヒヨコが皆を連れてきたのか……」
お兄様のお父さんもお姉さんも納得してくれたね。
確かに空間移動なんて信じられないよね。
一瞬で離れた場所に移動できるんだから……
「このヒヨコがいればどこにでも行きたい放題か」
お兄様のお父さんが、ベリアルを見ながら呟いたけど……
「お兄様のお父さん、そうでもないの。この移動はすごく危険でね? 失敗すると移動する前と後の場所で身体がちぎれちゃうらしいの」
「え? そうなのか。それは困るな」
「普段はベリアルは自分一人しか空間移動をしないから、今日は驚いたの。皆の身体がちぎれなくてよかったよ」
皆でベリアルを見つめる。
皆が何を考えているのかは分かるよ?
リコリス王国への帰り道だよね?
失敗して大変な事にならないか心配しているんだ。
「ベリアル、リコリス王国に戻る時だけど……」
「ん? なんだよ? 今、お菓子食べてるから待ってろ!」
ヒヨコの姿のベリアルが一生懸命お菓子を食べている。
あぁ……
かわいい……
後ろからそっと吸ってもバレないかな?
少しだけ……
少しだけだから……
ハーピーちゃんを抱っこしたまま、ゆっくりベリアルの背後に立つ。
ハーピーちゃんに見つめられているけど、わたしはこういう姉なの!
残念な姉でごめんね……
では、いただきますっ!
顔をベリアルに近づける。
ダメだ。
ニヤニヤが止まらない……
「待て! ルー! ここでベリアルの機嫌が悪くなったら、皆、はんぶんこだ! こらえろ!」
「そうだぞ? 我慢だ! オレらはいいとしてもルー達は大変だぞ!?」
「姫様……我慢です。姫様ならできます!」
我慢!?
こんなにかわいいヒヨコちゃんを目の前にして我慢!?
できるはずないよ!
「あぁ……我慢するルゥも最高にかわいい……」
お兄様が嬉しそうにニヤニヤしている。
うう……
冷静になろう。
お兄様の前でこれ以上恥はかけないよ。
わたしは聖女
わたしは清純な聖女
わたしは純粋な聖女
よし!
落ち着いたよ。
「おお、ルーが凛々しくなったぞ!?」
「これで安心して帰れるぞ!?」
「さすがは姫様です!」
ふふふ。
わたしはやればできる子なんだよ!
「それにしても妹はヘリオスにそっくりだな。性格まで同じだ!」
お兄様のお父さんが笑っている。
確かに顔はそっくりだよね。
青い瞳に銀の髪。
片耳にルゥのお母さんの形見のイヤリングもつけているし。
だから、ハデスも一目見てわたしの家族だって分かったんだ。
「お兄様はどんな子供だったの? やっぱり、賢くてかっこ良かった?」
お兄様は、この若さでリコリス王国の立派な王様だから小さい頃から天才とかだったのかも!
「ヘリオスが賢くてかっこいい? ……あははは! あり得ないあり得ない!」
「そうだぞ? ヘリオスはイタズラばっかりしてなぁ。赤ん坊の時に別れた妹がいるって話したら、それからは変態街道をまっしぐらだ。あははは」
「妹を一目見てからは、鼻血垂らすほど興奮してな。いつかリコリスで一緒に暮らすんだって、勉強するようになったんだ。それまでは、口じゃあ『王になる』って言っても勉強は一切しなかったからな」
そうだったんだ……
お兄様は、わたしとリコリス王国で暮らそうとしてくれていたんだ。




