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ルゥとパパ

「ルゥー! かわいいお花が咲いたよぉ」

 

 花に水をあげながら、パパがわたしを呼んだけど……

 しまった。

 見られちゃったかな?


 島にいる緑色の小鳥に木の実をあげていたわたしは、慌てて小鳥を隠す。


 良かった。

 見られていないみたい。


 パパは小魚と野菜しか食べないけど、本能で攻撃しちゃうかもしれないし。

 ママとじいじは確実に肉食だから絶対に話せないんだよね。

 この小鳥は、わたししか知らない島の秘密なんだ。

 

「今、行くよ」


 小鳥をいつもの木にとまらせてパパの所に急ぐ。


『家族の愛』って言っても、ほぼパパのおかげでわたしは無事に十四歳になれた。


 パパは、身体は大きいし顔はやたら怖いけど優しくていつもかわいがってくれる。

 人間のわたしには良いパパなんだけど、魔族のじいじやママからしてみるとイライラする事もあるらしい。


 オークだけど優し過ぎて何かの命を奪う事もできないし、わたしが転んで膝を擦りむいただけで卒倒するくらいだから……

 あの時、わたしを見てヨダレを垂らしていたような……?

 気のせい……だよね?


 前世のお父さんも生きていれば、こんな感じだったのかな……?


「うわあぁ! 綺麗に咲いたね」

 

 パパ自慢の花壇の横に座りながら、パパの顔を見ると……

 

 うん。

 やっぱり顔が怖い。

 でも、笑っている顔はほっぺたが少しピンクになってかわいく見える。

 

「お腹空いたぁ? パパがご飯を作ろうねぇ」

 

 パパが、ニコニコしながら話しかけてくる。


「うん。パパのご飯大好き!」

 

 気持ちのいい朝の潮風が、日焼け止め代わりの土を塗った髪と身体を通り抜けてひんやりする。


 この日焼け止めは、赤ちゃんだったわたしが日焼けしてかわいそうだって泣きながらパパが作ってくれた物なんだ。

 それからは雨の日以外、毎日塗っているんだよね。


 今世のわたしは青い瞳に日に当たると青みがかる銀色の髪、白い肌。

 でも、この土を塗ると皮膚や髪が茶色くなる。

 不思議な事に海水だと落ちなくて、水だと簡単に落とせるという優れ物。


 パパは普段は、のんびりしているけど薬草とか土とかに関しては色んな知識を持っている。


 

 ここは異世界の果てにある小さな島。

 空から見ると綺麗な島が透き通る海に浮かんでいるみたいに見える。

 ばあばは離れて暮らしているから、この島には、じいじ、ママ、パパと四人で暮らしている。

 わたしが来るまでは『死の島』と呼ばれる程、魔素に包まれていたらしい。


 わたしが、この異世界に来た時……


「じいじの『お友達』が今から来て綺麗にしてくれるからな」

 

 って、ヴォジャノーイ族のおじちゃん達に色々させていたけど……

 お友達……

 下僕の間違いじゃない……?

 っていうくらい皆ペコペコしていたような……?


 わたしは前世の記憶があったから赤ちゃんの頃の事もほとんど覚えている。

 ここにいる『家族』が、わたしが寂しくないようにたくさんの愛を注いでくれたんだ。

 

 じいじの友達のおじちゃん達は一日に一度、じいじに海で起きた事の報告に来るけどパパとママの友達は来た事が無い。

 魔族にも親や兄弟はいるはずだけど会った事も無いんだよね。

 なんとなくだけど、聞いてはいけない過去があるみたいなんだ。

 

 この小さな島に色んな種族が集まって暮らしていたっていうのも何か訳がありそうだし。

 うーん……?


「ルゥ? お腹空き過ぎちゃったかなぁ?」


 少し考えていると、心配そうにパパが髪を撫でてくれる。

 

「えへへ。お腹ペコペコだよ」

 

 わたしも前世の記憶持ちだとは言っていないし、やっぱり知られたくない事もあるだろうし……

 深く考えるのは、やめよう。

 血が繋がっていなくても大切な家族なんだから。


「パパ。わたしね……パパの子供になれて幸せだよ?」


「うおおーん!!」 


 ぼそっと小さな声だったけど、オークのパパにはしっかり聞こえたみたいだね。

 島中にパパの嬉し泣きの雄叫びが響き渡った。

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