リコリス王国にお出かけ(8)
「るぅ、ばんしってなぁに?」
ハーピーちゃんが雪あん姉のローブの襟元から顔を出す。
うわあぁ!
かわいいっ!
世界一かわいいっ!
「万死っていうのはね? 何回命を奪っても足りないっていう事だよ?」
「んん? わからないよ? かんたんにいって?」
「簡単にか……生意気な人間を無残に✕✕にしても一回じゃ足りないから、何回も何回もいたぶり✕✕したいっていう事かな? 要するに気が済むまで何回も痛く✕✕っていう事だよ? 内臓とか✕✕たりすれば苦しいだろうね」
「そうか! わかった。なんかいも、いたくやるんだな」
「そうだよっ! ああ、ハーピーちゃんは天才だねっ!」
かわいいっ!
しかも天才っ!
わたしの弟は世界一かわいいっ!
「お前……何て恐ろしい事を幼子に教えるんだ……」
あれ?
ぞっこん兄ちゃんが震えている?
恐ろしい事?
変な事を言ったかな?
「ぞっこん兄ちゃん?」
どうしたのかな?
「誰が、ぞっこん兄ちゃんだ!?」
え?
あなたしかいないでしょう?
真っ赤になってかわいいね。
「もういい! 全員捕らえるぞ!」
ぞっこん兄ちゃん……
女の子にぞっこんな事がバレたから恥ずかしいのかな?
慌てちゃってかわいいね。
「待て待てぇい! この紋所が目に入らぬかぁ! ってあれ? どこにやったかなぁ? あれ? うーん?」
吉田のおじいちゃん……
夜なべして作った印籠をなくしたのかな?
この世界で印籠を見せてもダメなんじゃないかな?
それに、吉田のおじいちゃんは御老公じゃないからね……
って……
ちょっと待って!?
印籠を捜しながら服を脱ぎ始めたよ!?
さすがに大国でそれはまずいんじゃないかな!?
「お前!? レディの前で何て事を!?」
「レディ、お下がりください!」
あぁ……
警備兵が吉田のおじいちゃんを囲んじゃった。
これ……
捕まっちゃうやつだよね?
「いいか!? お前は公衆の面前で裸になった罪だ!」
……ぞっこん兄ちゃんが張り切っているね。
女の子に勇ましいところを見せたいのかな?
「それから、お前は幼子に恐ろしい事を教えた罪だ」
え?
わたしも!?
「それから……お前は……大きいから捕まえる」
え?
雪あん姉は確かに二メートルを超えているけど、理由が身長って……
何でもいいから捕まえたいのか……
ああ、手柄をたてて女の子に褒められたいとか?
「それと……お前は万死とか言ったから捕まえる!」
あぁ……
ハデスを指差しちゃったね。
しかも、前ヴォジャノーイ王で最恐の魔族って呼ばれていたハデスを『お前』って……
もうハデスを止められないかも……
「最後に、お前は……お前は……」
そうだよね。
おばあちゃんは何もしていないからね。
捕まえる理由がないよね?
「オレを捕まえるんか?」
おばあちゃんが昭和の大スターの綺麗過ぎる容姿で尋ねているね。
「うぅぅ……騎士としてレディを守る……から……あなたと幼子は捕らえません」
え?
わたしも女だけど!?
「オレも女だぞ? れでーだぞ?」
雪あん姉、その通りだよ……
わたしも女……
わたしもレディ……
「おい。おまえ、るぅが、おとこだというのか?」
ハーピーちゃんがご機嫌斜めになっていくのが分かる。
まずい……
人間食べ放題を始めないよね!?
「もういい! この怪しい集団を捕らえろ!」
警備兵が向かって来る。
あぁ……
もう、どうなっても知らないよ?




