リコリス王国にお出かけ(7)
後から来た男は、わたし達を悪者だと思い込んでいるんだね。
困ったな。
明らかにこの男は、女の子の事が好きみたいだし。
それが分かるからおじいちゃんもおばあちゃんも雪あん姉も、孫の恋を応援する祖父母みたいな顔になっているよ。
「若いっていいなぁ……青春だなぁ。あははは」
「よっ! 色男! 憎いねぇ! あははは」
「どこまで行ったんだ!? えーか? びーか? しーか? あははは」
吉田のおじいちゃん?
ABCに行くの?
うーん……
全然分からないよ。
「何を笑っているのだ!? 赦せん!」
まあ、そうだよね。
バカにされている感じはあるよね。
「あの……ちょっと待って? 誤解なの」
話して分かってもらわないと。
それに、わたしに刃物なんて向けたらハデスが怒り狂っちゃうよ?
「お前は女か……お嬢様をどうするつもりだった!? もう妙な事はさせないぞ!? さてはあいつらの手先か!?」
後から来た男……?
誰が拐わせようとしていたのかを分かっているみたいだね。
そういえばさっき、女の子が他の令嬢もいなくなったって言っていたような。
お兄様の国でこんな犯罪が起きているなんて。
一体何が目的なんだろう?
「こっちだよ! 女の人が追いかけられてるのは!」
十歳くらいの男の子が警備兵を連れて走って来た。
よかった。
これで悪者を捕まえてもらえるね。
「ちょうどいいところに! 警備兵! こいつらを捕まえてくれ!」
え?
後から来た男が大声で叫んでいるけど……
ちょっと待って!?
もしかして、わたし達を捕まえろって言っているの!?
「待ちなさい! この方達は恩人で……」
女の子が止めようとしているけど……
「お嬢様! 後はお任せください!」
後から来た男……
あなたに任せたら大変な事になるよ?
わたし……
一応聖女で、この国の王妹だよ?
そんな事をしたら、ここにいる人間の首が全部飛んじゃうよ!?
「ちょっと待って! そんな事をしたら皆大変な事になっちゃうよ!?」
「大変な事……? やはり、お前達は怪しいな……お嬢様! 騙されないでください! お嬢様はお優しくてかわいくて素敵なので、すぐに騙されてしまうのです!」
え?
今、かわいくて素敵って……?
真っ赤な顔をして……
もう好きなのがバレバレだよ?
でも、女の子の方はそうでもないみたいだね……
あり得ないくらい真顔だよ……?
「おお! やっぱりそうか! あははは」
「許されざる恋か? くぅぅぅ! 燃えるなぁ! あははは」
「ほれ、今すぐチューしろ! ぞっこん兄ちゃん! あははは」
あぁ、おばあちゃん達……
これ以上煽らないで……
もっと怒っちゃうよ?
「お前達……もう赦せんっ!」
ほら、完全に怒っちゃったよ……
恥ずかしくなっちゃったかな?
純粋なんだね……
でも困ったね。
何が困ったって、ハデスが人間達をアレしちゃいそうだって事だよ……
ハデスのローブ越しに感じる殺気がすごい……
「ハデス……やめてね? 一応、お兄様の国の人間だから……」
お願いだからやめて?
「この人間どもはルゥに刃物を向けた……万死に値する」
万死……!?
怖いよ?




