リコリス王国にお出かけ(3)
「貴族の洋品店に行けば子供用の服があるだろう」
ハデスが緑茶を飲みながら、おはぎを食べているね。
甘党なのかな?
「ふくは、きゅうくつだ。らくなものがいいな」
ハーピーちゃんが漬け物をポリポリ食べながらハデスに話しかけている。
あぁ……
違和感がすごい。
異世界なのに日本みたいだね……
ハデスもハーピーちゃんも、すっかり和食が気に入っている。
「ハーピーちゃんに似合うかわいい服がたくさんあるといいな。ちょうどいい大きさの服があるかな?」
この世界は、前の世界みたいにいろんなサイズの服が揃っていないんだよね。
よく売れるサイズの服はたくさんあるけど、あまり売れないサイズの服はほとんど置いていないんだ。
ハーピーちゃんの小さい服は、もしかしたら売っていないかもしれないよ。
少し大きいくらいだったら直せば着られるかな?
リコリス王国の誰もいない波打ち際に着くと静かに上陸する。
「では、おばあさん達は絶対にわたしから離れないでくれ。広い人間の国で迷ったら大変だ」
ハデスの言う通りだね。
特に吉田のおじいちゃんは一番の危険人物だよ……
「任せとけ! あははは」
吉田のおじいちゃん……
任せとけって言っていたよね?
「いない! どこにもいないよ!?」
どうしよう!?
こんな大国の複雑に入り組んだ道で見失うなんて……
「ルゥ、こういう事もあろうかと、はぐれた時の集合場所を決めておいただろう? 大丈夫だから落ち着こう」
ハデス……
他の人ならともかく、あの吉田のおじいちゃんだよ!?
嫌な予感しかしないよ。
「そうだぞ? あの高い時計台の前の噴水で待ってれば会えるさ」
雪あん姉がハーピーちゃんを抱っこしながら、慌てるわたしを落ち着かせようとしてくれる。
でも……
あの吉田のおじいちゃんだよ……?
「もし、警備兵にでも捕まっていたら……」
すぐ裸になるし、今頃捕まっているかも……
「とりあえず、噴水に着いたなぁ。ここで待とう」
おばあちゃんも冷静だね。
それにしても、大国なだけあってすごい人だよ。
人通りが途切れる事がない。
……ダメだ。
二十分待ったけど全然来ないよ……
もしかして、集合場所を間違えている?
いや……
まさか、もうすでに捕まっているとか!?
「ハデス、ここで待っていて? 時計台に登って上から捜してくるよ」
これ以上待っていたら大変な事になりそうな気がするし。
「わたしも行こう」
「ハデスはここで皆と待っていて? 皆もここは初めてだから、置いていったら心配だよ」
「分かった。気をつけるのだぞ? 絶対にフードを取ってはいけない」
ハデス?
聖女だってバレないようにっていう事かな?
わたしもハデスもおばあちゃん達もローブを着てフードを目深に被っている。
おばあちゃん達の場合は東洋の顔立ちが目立たないようにだけどね。
わたしは前にリコリス王国に来た時に顔を見られているから、成長したとはいえ見る人が見れば分かるかもしれないし……
身分を隠して旅をする為には、素顔を見られるのはよくないよね。
「うん。行ってくる……」
時計台から少し離れた家の屋根に登って、屋根伝いに時計台の裏手からてっぺんに登る。
風の魔力で瞬時に上がる事もできるけど、人目につきたくないからね。




