オレ様王子とマンドラゴラ(1)
「ギィヤアー」
「ギャアー」
朝か……
ママのベットで目を覚ます。
あれ?
ママは卵をもらいに出かけたのかな?
「ギャアー」
ママは毎朝プリン用の卵をどこかから持って来てくれるんだ。
見た事がない卵だけど、何の卵なんだろう?
「ギィヤアー」
ん?
何の声?
さっきから誰かの悲鳴が聞こえてくる。
外からかな?
とりあえずイヤリングだけ左耳につけて……と。
玄関の扉を開けて、外を見ると……
……!!
嘘でしょ!?
幸せの島に大量のマンドラゴラがいる!?
確実に百以上いる!
何で?
しかも歌ったり踊ったり……
ん?
何かを火の上でクルクル回して焼こうとしている?
って、パパ!?
「ルゥゥ……助けてぇ」
パパが焼かれちゃう!
「パパ! 今、助けるよ!」
ふぅ……
なんとかマンドラゴラからパパを引き離せたよ。
あれ?
幸せの島の一番高い木の枝にピーちゃんが見える。
隠れるのをやめてから、ずっとパパの肩にいたのに……
パパを置いて逃げたのか……
「うわああぁん! 怖かったよぉ」
抱きついてきたパパの頭を撫でてあげる。
「もう大丈夫だよ。わたしが守るからね」
パパが泣きべそをかいている。
優しいパパを食べようとするなんて!
絶対に赦さない!
とりあえず魅了の力で動けなくしよう。
って、あれ?
どうやるんだろう?
いつも無意識にやっているから分からない。
それにいつもなら、今頃魅了されているはずだけど……?
野菜は魅了できないとか?
でもマンドラゴラは野菜なの?
魅了しないようにする訓練しかやっていなかった!
どうしよう?
しまった!
大量のマンドラゴラに囲まれちゃった!
小さい大根みたいだけど、目と口がついていると少し怖くも見える。
短いけど足も手もついているし。
パジャマだから動きにくいな。
普段はアラビアンパンツだから動きやすいけど、髪もおろしているから邪魔だ。
パジャマのロングワンピースの裾をマンドラゴラが引っ張ってくる。
よく見たら、手には瓶に入ったジャムを持っている!?
塩や砂糖を持っているマンドラゴラもいる!
もしかして、味付けしてわたし達を食べようとしている?
とりあえず……
「パパ! 頭を低くして! 火の魔術を使うよ!」
本来魔術は詠唱して精霊を呼び出して、その聖霊が力を貸してくれる時にだけ魔法陣を描いてもらえる。
精霊は人間からは見えないから、魔法陣が現れれば精霊がこの場にいて魔術が使えるという合図になる。
でも、じいじが教えてくれたやり方は違う。
前もって精霊に直接会って、いつでも力を貸してもらえるようにお願いしておく。
その時精霊にわたしの手のひらに魔法陣を描いてもらう。
そうすると魔術を使いたい時その精霊の使う魔法陣を空中に瞬時に出して、精霊の力を貸してもらう事ができる。
手のひらに描いてもらった魔法陣は普段は透明だけど魔術を使いたい時にだけ現れて、スタンプを押すみたいに簡単に空中に魔法陣を出す事ができる。
精霊が魔法陣を描く手間も省けるし、精霊はすぐに来てくれるから詠唱無しで魔術を使える。
魔術を使う時の詠唱は精霊との駆け引きみたいなもの。
詠唱しても力を貸してくれるとは限らない。
一番困るのは、戦っている時。
同じ精霊を何度も詠唱して呼ぶと精霊の機嫌が悪くなって、戦いの最中にもう魔法陣を描いてくれない事もあるらしい。
精霊の魔法陣は複雑だから何度も描けって呼び出されたら嫌になるよね……
前もってお願いしておくと、魔法陣を描くのが面倒な精霊もスタンプみたいに魔法陣をポンポン出す事ができるから嫌がられずにすむみたい。
魔族の場合は、魔術が使える種族が決まっている。
オーク族やハーピー族は生まれつき魔力がない。
ヴォジャノーイ族は生まれた時から水の魔術が使えるらしい。
水属性っていうのかな?
元々持っている属性の魔力は精霊の力がなくても使えるから魔法陣はいらない。
自分の属性以外の魔術を使う時には、精霊に力を貸してもらう。
じいじは来たくない精霊を無理矢理呼び出して、強制的に力を使わせちゃうみたいだけど……
じいじ……
すごい……
空中に火の魔法陣を出す。
よし、火で焼き払……
バサバサ
なんだろう?
鳥の羽音?
空に大きい鳥が見える。
ママじゃないな。
鳥の背中に……人間?
違う!
鳥じゃない!
小さいドラゴン?
「なんだ。魔王の娘はマンドラゴラより弱いのか!」
背中に乗った人間が上空で叫んだ?
誰?
魔王の娘って言っている。
魔族かな?
背中の魔族が小さいドラゴンから飛び降り、砂浜に着地する。
誰だろう?
人間みたいに見えるけど頭にヤギみたいな角が生えている。
キラキラのオレンジ色の短い髪に赤い瞳。
アラビアンパンツに上半身は裸。
細く見えるけど筋肉がすごい。
「こんなザコにやられるなんて、お前ほんと……」
わたしの姿を見た魔族が顔を赤くして、動かなくなる。




