種族王~後編~
「そうよね? 生まれて十数年の赤ん坊のルゥでさえ知っているんだから、リヴァイアサン王が知らないはずないわよね?」
え?
わたしが赤ちゃん?
ドラゴンから見れば赤ちゃんなのかな?
「ホワイトドラゴン? 落ち着いて。まさか……リヴァイアサン王国に乗り込むんじゃないよね?」
おじいちゃんが慌てて止めようとしている。
「あら? だって、わたし聞いてないもの。ダメなの? 決まりは決まりよ。あと、乗り込むのはヴォジャノーイ王国よ。今、攻め込んでいる最中なんでしょ? リヴァイアサン王に会ってくるわ」
ばあば……
本気なの?
「じゃあ、ちょっと行ってくるわね」
ばあばがドラゴンの姿に戻ると、すぐに飛び立つ。
おじいちゃんも慌ててドラゴンの姿になって追いかけた。
「おお……でかいトカゲだったなぁ。あははは」
「背中に乗って空を飛んでみてぇなぁ。あははは」
「今度頼んでみるか? あははは」
第三地区の皆に怖いものはないのかな……?
「ルーチャン、ヴォジャノーイオウハ、ヘイキカナ?」
ピーちゃんも心配してくれるんだね。
確かに、ヴォジャノーイ王はすごく優しいから……
「ピーちゃん、ヴォジャノーイ王は普段は優しいけど、本当はすごく強いはずだよ。だって、あの鍛錬の島で生き抜いたんだから」
「……ソンナニ、コワイ、トコロナノ?」
「うん……特に最後の敵がね……」
「……ルーチャンモ、タイヘンダネ」
「……うん。大変だったよ。でもね、第三地区の皆は鍛錬の島を遊園地みたいに楽しんでいたんだよ? 驚いちゃった」
「ジーチャンタチナラ、アリエルネ……」
ピーちゃんと一緒に、第三地区の皆を見つめる。
あぁ……
吉田のおじいちゃんは、まだ裸だよ……
あれ?
お父様が何かを持っている?
箱?
「お父様? その箱には何が入っているの?」
「うわあぁ! 殴らないでぇ!」
お父様が身構えた!?
いや、まだ殴らないよ?
もっと強くなったらだよ?
「あぁ……いや、あの……牛乳とか生クリームとか、この世界には無い食べ物だよ?」
「向こうの世界から持ってきているの?」
「うん。わたしのせいで迷惑かけたからね。害が無い物ならいいって天界からも言われてるんだよ」
「そうなんだね……お父様、ありがとう」
第三地区の皆が楽しく暮らせるように気遣ってくれているんだね。
「ルー、じゃあ殴るのは?」
「……」
「ああ! 無言が一番怖いよ!?」
お母様に言われたんだよね。
お父様には無言の圧力が効くって……
「月海、お父さんはヴォジャノーイ王国に行ってくるよ。ドラゴン王が何をするか心配だからね」
お父さんは魔王だから大変だね。
「うん……ドラゴン王のばあばが本気で暴れたら世界が滅亡しちゃいそうで心配だよ」
「なるべく穏便にとは思うけど……今回は無理かもしれないね。じゃあ、行ってくるよ」
「お父さん、気をつけてね?」
「星治、気をつけるんだぞ?」
おばあちゃんも心配だよね……
「でも……お父さんはヴォジャノーイ王国まで、どうやって行くの?」
かなり遠いはずだよ?
「大丈夫だよ? これで行くから」
これ?
どれ?
お父さんが手を伸ばすと、黒いモヤが出てきて小さいドラゴンの形になる。
すごいな。
古代の闇の力か……
……?
あれ?
なんだろう?
懐かしい……?
気のせい……だよね?
「じゃあ、行ってくるよ」
お父さんがドラゴンに乗って空に昇っていく。
「気をつけてね!」
お父さんは強いから大丈夫だとは思うけど……
「ハデス、月海を頼んだよ?」
「はい。魔王様」
こんな時までわたしを心配してくれるんだね。
本当はハデスも行きたいだろうけど、我慢しているんだ。
それに、ヴォジャノーイ王なら乗り越えられるって信じているんだね。
そうだ!
疲れて帰ってくるお父さんの為においしい物を作ろうかな?
できれば、大変な状況で疲れているヴォジャノーイ王達にも何か作りたいけど、ハデスが距離を置いたのにわたしが出入りするわけにはいかないよね。
「おばあちゃん、わたしね? お父さんに好物を作ってあげたいの」
「そうか、オレも同じ事を考えてたんだ。一緒に作るか」
さすが、おばあちゃんだね。
お父さんの好物をいっぱい作って待っているからね。
無事に帰ってきて……




