再会と真実(6)
イナンナ……
あぁ……
この気持ちはペルセポネの心……?
ペルセポネとイナンナは親友だったんだ。
懐かしさを含んだ優しい気持ちになっていく……
「お父さん……立とう。立ち上がらないとダメなんだよ。大好きなお母さんがイナンナだとしても……お母さんはお母さんだから。わたしを産んでくれたお母さんだから」
「月海……」
「お父さん。ごめん……わたしのせいだよ。わたしの身体を作る為に天使の身体を使ったんだから。天使の皆にも酷い事をしちゃった。とても許されない事をし続けてきて申し訳ないよ」
「ボク達だけが被害者じゃない……そう言いたいんだね……」
「わたし……もう迷わない。わたしが泣いたら一緒に泣いて、わたしが笑ったら一緒に笑ってくれる皆がいるから。わたし……ここにいる皆と本物の家族になりたいの! 全部わたしのせいなのに『一緒に前に進もう』って手を差し伸べてくれる皆を二度と裏切らない! 絶対に逃げたりしない!」
少し前だったら、こんな風には考えられなかったはずだよ。
わたしはいつも怖かったんだ。
自分のものじゃないみたいな身体も、夢遊病のおばあちゃんの後を付いて歩いている時も……
おばあちゃんが雪の中で倒れて亡くなった時も……
でも、本当の恐怖はその後だった。
お葬式が終わって夜になって……
誰もいない家にひとりぼっち……
雪が降り続けて静か過ぎる夜……
……え?
おかしいよ?
おばあちゃんが亡くなったのは冬だよ?
その五日後にわたしが溺死した……
あれは夏だったよ?
頭が、ボーっとしてきた……?
何か変だ。
頭にモヤがかかったみたいになっている。
「お父さん……おかしいよ。おばあちゃんが亡くなったのは真冬だったのに、五日後には真夏になっていたの。だから川遊びに誘われて、わたしは溺死したの」
「え? 季節が変わったの? デメテルは季節を創った女神……でも、デメテルがしたとは考えられない」
お父さんが混乱している。
「うん。わたしもそう思うよ? お母様は、ずっとわたしとおばあちゃんを守ってくれていたの」
「……弟だ」
ハデス?
弟って、お父様の事?
「魔族の世界に聖女が産まれる事を知っていた弟が、聖女が産まれるタイミングで……集落のルゥが亡くなるように仕向けたのだ」
ハデス……
何を言っているの?
お父様がわたしを……
月海だったわたしを殺……
嘘……
嘘だよ……
「嘘……」
頭が真っ白になって何も考えられない……
「これだけは、分かって欲しい。集落にいたルゥ……ルミは魔素にやられていた。溺死しなくても数日で亡くなっていただろう。ルミが生き残る為には、聖女の身体に入るしかなかったのだ」
お父様……
そこまでしてペルセポネを生かしたかったの……?
月海だったわたしを溺死させてまで……?
「ルゥ……大丈夫か? 弟は愚かだ。溺れて……苦しくて、怖かったな……」
「ハデス……」
「弟は、ペルセポネを守る為に全てをかけた。今までやってきた事は到底赦されない。だが、わたしは感謝している」
「感謝……?」
「ルゥと今、幸せに暮らしていられるのは弟のおかげだ」
「……お父様……が……」
上手く言葉が出ないわたしの心が落ち着くのを、ハデスも皆も待ってくれている。
身体がガタガタ震えている。
立っているのがやっとだ……
皆が心配そうにわたしを見つめている。
ゆっくりになるけど、しっかり話さないと。
「お父様が……優しいのは……知ってる。田中のおじいちゃんの頃のお父様を見て……きた……から。だから……ただ真っ直ぐに……ペルセポネを愛していたのも分かる……」
皆が静かに見守ってくれている。




