幸せの島と第三地区(8)
天使達はわたしがペルセポネだった事を知ったんだね。
ハデスの事も聞いたはずだよ。
でも、冥界のケルベロスはハデスを訪ねて来ないよね?
まだ知らないのかな?
あれ?
あん姉が広場に歩いて来た。
さっきまで、もんぺにほっかむりだったけど袴に着替えている。
黒い長い髪が大きいリボンでハーフアップにしてあるし、お化粧もしていてすごく綺麗だ。
今までは、もんぺ姿しか見た事がなかったけど……
「うわあぁ! あん姉! すごく綺麗だよ!」
「そうか?」
あん姉が恥ずかしそうに笑っている。
「あれ? お雪ちゃんはデートか?」
吉田のおじいちゃんが嬉しそうに冷やかしているね。
「え? あん姉、デートなの? うわあぁ! いいなぁ」
相手は第三地区の誰かだよね?
「もうすぐ来るはずだ……」
え?
『来るはず』って?
「誰か来るぞ?」
吉田のおじいちゃんが海を指差して叫んだ。
ん……?
待って!?
あれって!?
「お兄ちゃん!?」
いないと思ったら……
あん姉とデートをする相手って、まさかお兄ちゃんなの!?
「え? 聖女様? どうして……?」
陸に上がって来たお兄ちゃんが驚いている。
「あ……うん。あのね? 幸せの島と第三地区は隣にあったの」
お兄ちゃん……
あん姉に会う為に、世界の端から端までレモラ族の機械に乗って来たのか……
すぐ近くにあった事が分かってショックじゃないかな?
「え? 隣? それはどういう?」
「うん。世界の秘密って言われているらしいんだけど、地図上の幸せの島の奥に第三地区があったの」
「では……かなり早く第三地区に来られるのですか?」
「うん。海水を固めて橋を作ったの。五百メートルしか離れていないみたいだよ? お兄ちゃんなら走れば一分かからないんじゃないかな?」
「一分!? 一分ですか?」
かなり時間をかけて来たんだよね?
「お兄ちゃん……大丈夫? 悲しくなっちゃった?」
「いいえ。恥ずかしながら……恋をするのが初めてでして……お雪さんの事を考えながらワクワクしていたので……あっという間に着いてしまいました」
あっという間?
世界の端から端までが?
すごいな……
遠い距離を忘れさせるくらい、あん姉の事が大好きなんだね。
……あれ?
お兄ちゃんが手に何か持っている?
「お雪さん……途中で綺麗な花があったので……あの……どうぞ」
お兄ちゃんが恥ずかしそうに花束を渡している。
「オレにくれるんか……? 狼の兄ちゃん、ありがとう」
あん姉も嬉しそうだ。
見ている皆もニコニコになる。
あん姉は、この世界の第三地区に一番に来てからずっと頑張っていたんだよね。
お兄ちゃんは優しいからきっと幸せになれるよ。
あん姉の名前は雪さんっていうんだね。
雪あん姉か……
それにしても二人はいつの間に……
「……お雪さん……あの、誰もいない島がありまして……そこに火山と温泉を作ろうかと思っていまして。あの……お雪さんへの贈り物にしたいのです」
「え? オレの為にか? ……ありがとう。一緒に作ってもいいか?」
雪あん姉がほっぺたを真っ赤にして喜んでいる。
「一緒に!? はい! 嬉しいです!」
お兄ちゃんは嬉しそうだね。
しっぽがすごく揺れているよ。
大好きな雪あん姉の為の温泉か……
素敵だね。
お兄ちゃんは両親を亡くしてから王として頑張っていて、恋をする暇もなかったんだ。
これからは穏やかに幸せに暮らせるといいね。




