幸せの島と第三地区(5)
「ここが幸せの島かぁ」
「おお、クロモジの木がいっぱいあるなぁ」
「あれはなんだ! まさか温泉か!?」
「温泉!?」
「立派な家だなぁ」
「ハーピーちゃんは寝てるんか?」
……皆、元気だな。
まだ日も昇っていないけど……
「何だ? 騒がしいな? あれ? どうして、ばあちゃん達がいるんだ?」
ママとパパが起きてきた。
ハーピーちゃんがぐずっているね。
うるさくして起こしちゃったかな?
「ハーピーちゃんは泣いてるんか? 起こしちまったか?」
おばあちゃんがママに話しかけているね。
「ああ……違うんだ。最近色々分かるようになってきてな。夜になるとぐずるんだ」
「ちょっと抱っこさせてみろ。月海もよく夜泣きしたもんだ」
おばあちゃんがハーピーちゃんを抱っこした。
「ううぅ……」
「そうか、そうか。暗くなると『おっけぇ』が出るからなぁ」
「おっけぇって何だ?」
「ああ……そうだなぁ。古くから伝わる話だなぁ。赤ちゃんが泣く理由だ。ハーピーに話してやろうなぁ」
「それを聞けばハーピーちゃんが泣く理由が分かるのか? 教えてくれ」
おばあちゃんがハーピーちゃんを抱っこしながら話し始める。
「目を閉じると真っ暗になるだろう? ハーピー、目を閉じてみろ」
「ああ、真っ暗になったぞ?」
「目を開けてみろ」
「ん? 開けたぞ?」
「何が見える?」
「何って……少し明るくなってきた空が見えるな。あとは海と……ばあちゃんも見えるぞ? オークも見える……」
「そうだ。それで泣くんだ」
「ん? どういう事だ?」
「明るい時は、大切な人や場所がよく見えるだろう? でも真っ暗な夜には何も見えなくなるんだ。赤ちゃんは視野も狭いし、目もよく見えねぇからなぁ。不安になるんだろう。目を開けても閉じても暗いと、怖いんだろうなぁ」
「そうなのか……じゃあどうすればいいんだ?」
「薄暗いなら話しかけてやればいい。大好きな母親や父親の声を聞けば安心して目を閉じられる。目を開けているのか閉じているのか分からねぇ真っ暗闇なら、しっかり抱きしめて歌えばいい。大好きな人の胸の音と優しい歌声を聞けば暗闇の中でも安心していられるだろう?」
「そうか、ハーピーちゃんは暗闇に一人きりになったみたいで怖かったのか……ママはここにいるぞ? 歌か……ハーピー族は歌が得意なんだ」
「じゃあ、抱っこして優しく揺すりながら歌ってみろ。気持ちを落ち着かせるんだ。ハーピーの腹にいた頃から胸の音を聞いてるからなぁ。ハーピーの落ち着いた胸の音を聞くだけで安心するはずだ」
「分かった。やってみる」
ママがハーピーちゃんを抱っこしながら歌い始める。
透き通るような綺麗な声だ。
昇ってきた朝日に照らされてママの翼がキラキラ輝いている。
綺麗だ……
皆うっとりしている。
「眠ったな……」
ママが嬉しそうに笑っているね。
「オークもハーピーも一緒に寝てこい。赤ちゃんが寝た時に一緒に寝ねぇと身体が持たねぇぞ?」
「でも、ルゥに朝ご飯を作らないと……」
パパが寝不足な顔で、わたしの心配をしている。
「朝ご飯ならわたしが作るからパパもママも寝てきて? 身体が心配だよ」
「そうだぞ? 寝られる時に寝ねぇとなぁ。朝飯は第三地区で食えばいい。その方が静かに寝られるだろう?」
おばあちゃん……
助かるよ。
魔族は耳がいいからわたしが島にいたら、ゆっくり眠れないだろうからね。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
パパは笑っているけど、かなり疲れた顔だね。
『おっけぇ』か……
『おっかねぇ』つまり『怖い』っていう事だよね。
わたしが前世でおばあちゃんに聞いた話とは、かなり違うな。
おばあちゃんがまだ夢遊病の症状が出る前に言われたのは確か……
「月海……いつまでも起きてると『おっけぇ』が出て食われるぞおおお!!」
って脅されていたような……
あの時は『おっけぇ』より、おばあちゃんの顔の方が怖かったよ。
『おっけぇ』……
色んな使われ方をするんだね……
真っ暗闇……
目を開けているのか閉じているのかも分からない暗闇か……
前にどこかで……?
気のせいかな?




