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家族でお出かけ~ヴォジャノーイ王国前編~

「明日は魔王様のお墓に行こう」


 じいじが優しく、わたしの髪を撫でながら話しているけど……

 わたしが元気に成長した姿をお父さんに見せてあげたいのかな?

 じいじは本当にお父さんの事が大切なんだね。


 お父さんのお墓参りか……


 前世ではお母さんのお墓参りの時にお父さんにも手を合わせていたんだよね。

『お父さん、大好きな海で安らかに眠ってください』って……

 お父さんは海で行方不明になって遺体も見つからなかったから、もしかしたらどこかで生きているかもって考えたりもしたけど……

 まさかこの世界で魔王をしていたなんて。

 

 じいじの話によると、お父さんはこの異世界に転移して来たらしい。

 わたしは魂だけ転移して来たけど、お父さんは身体ごと転移して来たから前の世界で遺体が見つからなかったんだって。

 

 やっぱり、わたしは川で死んだのか。

 全然苦しくなかったから実感がないよ……


 お父さんのお墓はヴォジャノーイ王国にあるらしい。

 魔王城は別の所にあるけど、ヴォジャノーイ王国にお気に入りの場所があってそこにお墓を作ったんだって。

 

 お父さんは立派な魔王城があるけど、その頃は色々大変だったみたいでほとんどヴォジャノーイ王国にいたらしい。

 

 今は、魔王がいないから魔王城も使われていないんだって。

  

 翌朝___


 じいじとママとパパが、わたしが来るのを砂浜で待っているから急がないと。

 じいじは、わたしと二人で行きたかったみたいだけど、パパとママも付いて来る事になった。

 パパもママもわたしと離れたくないってじいじにお願いしたみたい。

 

 じいじは少し迷惑そうだったけど……

 

 家族で一緒にお出かけしたのは人間を埋めに行った時だけだから、これからは色々な場所にお出かけできたらいいな。


「お待たせ」


 家から出て来たわたしを見て、パパがほっぺたを真っ赤にする。


 いつもは日焼け止めを塗って、茶色い肌と髪、チューブトップにアラビアンパンツ、髪はポニーテール。

 でも今日は常夏の幸せの島から出るから日焼け止めはいらないんだよね。


 じいじがプレゼントしてくれたフリルの付いた白いロングワンピースを着て、腰まで伸びた銀色の髪はおろしてみた。

 左耳にはいつもの青いイヤリング。


「じいじ、素敵な服だね。ありがとう。……似合っているかな?」


 着なれない服に少し緊張してパパみたいにピンクのほっぺたになったわたしに、じいじもママもパパも見入っている。


「うおぉぉん! ルゥがかわい過ぎて心配になっちゃうよぉ!」


 パパが泣きながらわたしを抱きしめたね。

 でも親の欲目だから大丈夫だよ。

 よその人の前でそんな事を言ったら笑われちゃうよ?


「いいか? ルゥ。妙な事を言ってくる輩がいたら、すぐにじいじに言うのだぞ?」


 じいじの目が怖過ぎる。

 え?

 赤く光っている?

 気のせいかな?

 

「ママにもすぐに言うんだぞ? 秒でってやるからな!」


 あ……

 今、るって……?

 

 

 じいじの魔術で海の中を進む。

 何度経験しても不思議な景色。

 海の少し深い所を、船より速く進んでいる。

 太陽の光が差し込んでキラキラして綺麗。

 小さい魚の群れの奥、あれは何?

 遠くの海底に船が沈んでいる。

 魚が、すみかにしているみたい。


 よく見るとたくさんの船が沈んでいる。

 人間の船が魔族に襲われたのかな。


 大昔、聖女が魔族を助けてからは大規模に人間を襲う魔族も減ったらしいけど……

 人間は魔族にとっては食糧だからね。

 海に生きる魔族は船を沈めて人間を襲う事もある。

 前の世界の人間が豚や牛を食べるみたいに、魔族も人間を食べる……


 仕方ない事だ。

 残酷かもしれないけど、これが現実だ。

 

 じいじとママもわたしに分からないように、人間を食べているはず。

 でも、それを責めるのは違う。

 生きていく為には仕方のない事だから……

 


 ヴォジャノーイ王国に到着したのは幸せの島を出発してから約一時間後。

 わたしがいるから少しゆっくりのスピードにしてくれたみたい。


「姫様……姫様ぁ……」

「姫様!!」 


 出迎えてくれた、たくさんのヴォジャノーイ族に歓迎されたり泣かれたり……


 今までは魅了の力を無意識に使っていたけど、じいじと訓練したら少しコントロールできるようになった。

 わたしの魅了の力は、一人につき一回だけで五分が限界なんだって。

 仲良くなったり好意的になってくれるのは嬉しいけど、魅了の力でそうなるのは違うと思う。

 だから、普段は使わないようにしたいし今も魅了しないように気をつけているんだ。

 それに、五分後には襲われる可能性もあるし。

『五分間しか魅了できないのにどうして五分経ってからも襲われないし、魔族の皆が優しくしてくれるの? 』って、じいじに尋ねたら……


『人間に例えたら……そうだな。子猫に優しくするのと同じだ。ルゥは小さくてかわいいから皆が仲良くしたいのだ』って言っていたけど……

 お父さんが魔王だったし、じいじが怖いからっていうのもありそうだよね。

 じいじは次期魔王って言われていた時もあったらしいけど、わたしを育てたいからって今のヴォジャノーイ王に譲位したんだって。

 じいじは前ヴォジャノーイ王だったんだね。

『わたしの為に王位や魔王の座を諦めさせてごめんね』って謝ったら……


『地位や名誉よりも、もっと大切な事がある。ルゥと過ごしている時が一番幸せなのだ』って言ってくれたんだ。

 じいじは、いつもわたしにたくさんの愛を与えてくれる。

 もちろん、出会ったばかりの頃はお父さんの娘だから大切にしてくれたんだと思う。

 でも、今は本当にわたしを大切に想ってくれているのが分かる。


 じいじがわたしを幸せにしてくれるみたいに、わたしもじいじを幸せにしてあげたいな。


 それにしても……

 ヴォジャノーイ王宮は金色でキラキラしている。

 どこを見ても豪華だなぁ。

 調度品も全部金色だし。

 ……?

 あれ?

 金色っていうよりは本物の金のような……?

 うぅ……

 目がチカチカする。


 王の間に着くと玉座に王様らしいヴォジャノーイ族がいる。


「姫様……姫様……ひっ!」

 

 金色の王冠をかぶったヴォジャノーイ王がわたしを見た後に、何かに怯えている?

 どうしたんだろう?

 

 ヴォジャノーイ王は、じいじの甥っ子だから少し似ているね。

 それにしても、王様がすごく震えているような……?

 

 王様の視線の先には……じいじ?


 じいじが、わたしの視線に気づいたみたいだ。

 わたしの髪を撫でながら微笑んでいる。


 ガタン!

 ドサッ!


 ……?

 何の音?

 すごい音がしたよ?

 え!?

 王様が玉座から滑り落ちたの!? 

 玉座の前に倒れているよ!?


「嘘だ! 伯父上が笑った!?」


 王様の悲鳴にも似た大声が玉座の間に響き渡った。

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