パパのキャンディ(2)
夕方、お母様が天界に帰るとすぐにベリアルがもう一度遊びに来てくれた。
ずっとパパの肩にいるけど。
ハデスが怖いのかな?
「ルゥ、ばあちゃんが甘い物をいっぱい作ってくれるんだ。それから、見た事ないご飯が……」
ベリアルは嬉しそうだね。
今までは、ずっと独りで寂しかっただろうから……
楽しそうに話すベリアルを見ているとわたしまで嬉しくなるよ。
「焼きマンジュウのおみやげ、おいしい?」
パパがニコニコしながら尋ねてくる。
「うん! おいしいよ」
口の周りが汚れているのは分かっているけど、おいし過ぎて止まらない。
「……本当においしそうだね」
え?
パパ……
真顔だけど……?
パパと無言で見つめ合う。
まさか……
わたしが、おいしそうっていう事?
「オーク? どうしたんだ? ヨダレが出てるぞ?」
ベリアルが、つぶらな瞳でパパを見つめている。
ああ……
やっぱり、わたしがおいしそうなんだね。
なんなら今はベリアルの方が近くにいるけど、大丈夫なのかな?
知らないって怖い……
「……もうダメだよ。限界だよ」
パパ?
何が限界なの?
いや、なんとなく分かるけど……
パパが慌てて部屋から出て行った。
ベリアルが肩に乗ったままだけど、食べられたりしないよね?
今頃……
いや、まさかね……
パパとベリアルがリビングに帰って来たけど……
あ……
パパの口にキャンディが入っているのが分かる。
「ルゥ。見ろ、ほらこんなにいっぱいキャンディがあるぞ? オークが一粒くれるって! ルゥも食べるか?」
ベリアルがつぶらな瞳をキラキラ輝かせている。
今、パパの目にはわたしとベリアルがおいしそうに見えているんだね……
キャンディを元の場所に戻しておいてよかったよ。
このキャンディがある理由は絶対にベリアルには内緒にしよう。
「オークは痩せて甘い物は食べないのかと思ったけど、キャンディは食べるんだな」
ご機嫌のベリアルが尋ねている。
パパ……
なんて答えるのかな?
「……そうだね。本能が……ね」
いや、怖い怖い。
声がいつもより低いよ?
目も虚ろになっているし。
「ん? 本当が? 何だ?」
ベリアル……
本当じゃなくて本能だよ。
「オーク、ご飯だぞ?」
ママがパパを呼びに来た。
毎日ママがどこかから肉を持って来て、お兄ちゃんと三人で食べているんだよね。
これからご飯だからお腹が空いていたんだね……
「何だ? ご飯なのか? オレも行く!」
ベリアル……
やめた方がいいよ。
「……間違えて食べたら大変だから、ここにいて……」
いや、パパ!?
急いでご飯を食べて来て!
顔つきが肉食丸出しになっているよ?
「ん? 何を間違えて食べるんだ?」
ああ……
首を傾げているヒヨコちゃんのベリアルの横に、ヨダレを垂らしたパパの顔が……
「……ルゥ……魔王様大切……おいしいダメ……ルゥかわいい……」
ベリアル……
もうパパは限界みたいだから。
訳の分からない事を呟き始めているよ?
「いいから早く行け……」
ハデスがパパの肩からベリアルを持ち上げた?
「うわあぁ! ハデス!? 離せ! オーク助けてくれ」
ベリアル……
誰が一番危ないか分かっていないね……
パパがご飯を食べに行くとハデスが話し始める。
「ベリアル……お前、もう少しのところだったぞ?」
う……
やっぱりそうだったんだね。
「何がもう少しなんだ? 痛いから離せよ!」
確かに抱っこというよりは、持たれている感じだからね。
もっと痛い目に遭うところだったけど……
「教えてやろう……」
「……? 何を?」
「お前……今、食われそうになっていたぞ」
教えちゃうんだね。
「は? 何がだ?」
「オークは肉食だ。常に気を抜くな」
「……? オークは優しいから大丈夫だろ?」
「まぁ……このサイズなら、ひとくちだな……」
ひとくち!?
ハデス……
怖いよ?
「そんなはずない! オークは優しいんだ!」
ああ……
飛んで出て行っちゃった。
ベリアルはパパが大好きだからね。
「ハデス……? ベリアルは大丈夫かな?」
「知っておいた方がいいだろう。いきなり食われるよりはな……」
「……うん」
確かにそうだね。
わたしも気をつけよう。




