嫉妬と魔王(7)
「きゃああっ」
家に入ると、ハーピーちゃんが楽しそうにお父様の悲鳴の真似をしている。
うわあぁ!
かわいいっ!
……お父様は今頃、日干しされているのかな?
「ハデス、日干しって何?」
知っているのかな?
「あぁ、火干しか……まぁ、軽い日光浴だな」
お母様と同じ事を言っている。
日光浴か……
でも、すごい悲鳴が聞こえてきたけど?
あれ?
パパが震えている?
どうしたのかな?
魚族長とお兄ちゃんも顔を見合わせて黙り込んでいる。
「皆、どうしたの?」
顔色が悪いよ?
「ああ……外の音が……いえ、あの……」
魚族長が言葉を詰まらせている?
魔族は耳がいいから聞こえているんだね。
「ルゥ、お待たせ」
お母様が、すっきりした顔でリビングに入って来た。
お父様は……?
外に置き去りにされたのかな?
「お父様は? 外?」
「ああ、ポセイドンの所に連れて行ったわ。わたしの火干しよりヘスティアの方が……アレだから」
アレだから?
何だろう?
パパがお母様を見て震えている。
外で何があったのかな?
「あら……オーク? どうしたの? そんなに震えて」
笑顔のお母様がパパに話しかけた。
「な……何でもない……です」
パパが敬語を使った!?
初めて見たよ?
「きゃああっ」
「あらあら、ハーピーちゃんがかわいい声を出しているわね。ふふ」
いや、お父様の悲鳴の真似だよ……
リビングが静まり返る。
「あの……そういえば、第三地区は大掃除するらしいんだ。わたしも家の大掃除でもしようかな?」
何でもいいから話そう。
空気が悪過ぎるよ……
「大掃除? 普通の掃除とは違うのか?」
ママが尋ねてくる。
「うん。いつもやらないような所も綺麗にするの」
「そうか。オーク、わたし達の家もやるか?」
「うん! 今……今すぐ行こう?」
パパが慌てて家から出て行った。
お母様が怖くて逃げたね……
「ああ……魚族長、わたしの家の掃除を手伝ってくれるか?」
「もちろん! ウェアウルフの家は広いからな。今すぐ始めよう」
魚族長とお兄ちゃんも逃げるように出て行った。
外から怖い音が聞こえていたのかな?
何があったんだろう?
「じゃあ、お父さんも帰るね」
お父さんは仕事が忙しいのに助けに来てくれたんだね。
ありがたいよ。
「ルゥ、お母様もお手伝いをしていいかしら?」
「うん。助かるよ。ありがとう」
ルゥになってからお母様と一緒に何かをするのは初めてだね。
心が温かい。
ペルセポネが喜んでいるんだね。
「ハデスは見ていてね? ルゥと二人でお掃除をしたいの」
お母様がすごく楽しそうにしている。
でも、天使って掃除とかした事があるのかな?
「じゃあ、キッチンから始めようかな?」
「キッチン? 何? それ」
え?
お母様はキッチンを知らないの?
「えっと……ご飯は、いつもどうしているの?」
「え? 椅子に座ると出てくるわね」
「デメテルは豊穣の女神だからな。家事はした事が……ないだろう……」
ハデスがお茶を淹れながら教えてくれたけど、少し様子がおかしいような?
「あら? ハデスは何をしているの?」
「お茶を淹れている」
「ええ!? ハデスはお茶を淹れられるの? すごいわね」
お母様……
感動しているみたい。
「わたしにもできるかしら? ゼウスに淹れてあげたいの」
あんなに悪口を言っていたけど、やっぱりお父様の事が大切なんだね。
安心した……




